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2020年4月3日(金)

ロケット打ち上げ新時代 “洋上打ち上げ”に密着

従来、ロケットの開発や打ち上げは国などが行ってきましたが、近年、民間の参入が活発化。ロケットの打ち上げビジネスが拡大しています。インターネットの通信や、地表の観測などに使われる小型の人工衛星を、比較的小さなロケットで打ち上げる需要が急速に高まっているからです。
しかし、ロケットが打ち上げられる発射場は、限られています。国内で宇宙空間に打ち上げ実績のある施設は3か所。宇宙にロケットを飛ばしたいと考える企業のニーズに対して、施設の不足が懸念されるようになっています。そんな中、注目されているのが海。洋上でのロケット打ち上げに乗り出したベンチャー企業に密着取材しました。

洋上打ち上げの現場に密着!

ことし(2020年)2月、茨城県沖80キロの洋上で、船の上に設けた発射台からロケットを打ち上げる実験が行われました。ロケットは、目標の高さ4キロに無事到達し、貴重なデータを取ることができました。

この実験を主導したのは、森琢磨さんです。森さんは、石油などを掘削する会社に勤めていた時に、海底の掘削に使う「リグ」と呼ばれる設備が石油価格の低迷で余っているのを目の当たりにしました。なにかに転用できないか考えた結果、思いついた用途が、ロケットの発射場だったといいます。森さんは、このアイディアの事業化に向けて、おととし起業。いまは比較的小さなロケットを船の上から打ち上げ、技術の蓄積を進めています。

森琢磨さん
「打ち上げられる場所と回数を増やし、宇宙業界全体でいろんなチャレンジができるような環境を作りたい。」

メリットが多い洋上打ち上げ

海の上での打ち上げには、陸に比べて、大きなメリットがあるといいます。
小型ロケットを研究する千葉工業大学の和田豊准教授は、これまで陸上の発射施設でロケットを打ち上げてきましたが、さまざまな課題を感じていました。ロケットの打ち上げ前には、実は多くの関係者との調整が必要だからです。現地の自治体や、上空を行き来する飛行機の運航に関わる機関、さらに沿岸の漁業者など…。こうした機関との調整には、1年かかることもあります。一方、洋上から打ち上げると、調整先は格段に少なくなります。洋上でのロケット打ち上げが実用化すれば、飛躍的に打ち上げ機会は増えると、和田准教授はいいます。

実用化に向けて進む“新たな技術開発”

広大な海を、発射場へと変える森さんの構想には課題もあります。水深の深い海域で船を安定させることです。
森さんはいま、ゼネコン大手の大林組と、船を係留するための新たな「いかり」を開発しています。一般的な「いかり」では、水深が深くなるほど船が波や風の影響をうけやすくなるからです。

開発しているのは“サクションアンカー”と呼ばれる特殊ないかり。「いかり」の中は空洞になっていて、その空洞から水を吸い上げることによって、「いかり」を海底により強く食い込ませることができます。この「いかり」を使えば、深い海でも、船をより安定させることができるといいます。

見えてきたビジネス化

事業化にむけて、企業との商談も始まっています。
ことし2月、森さんが訪ねたのは、国内で初めて、民間単独で開発したロケットを宇宙空間に到達させたベンチャー企業・インターステラテクノロジズの稲川貴大社長。稲川さんの会社では、ロケットを発射する施設を北海道に所有していますが、今後打ち上げの頻度を高めるため、ほかにも発射する“場”を確保したいと考えています。
そこで目を付けたのが、海での打ち上げです。商談では、具体的な打ち上げ目標が話し合われていました。

森琢磨さん
「週に1本以上打ちたいですよね。」

稲川貴大社長
「打ちたいですね。需要はあるので。」

森琢磨さん
「一緒に開拓できればどんどんできますよね。」

森さんは今年度中に洋上での打ち上げでロケットを宇宙空間まで到達させ、事業化への足がかりにしたいと考えています。「将来は、ロケットの打ち上げ数で日本が世界一になるようにしたい。人工衛星を打ち上げるために、世界中から日本に関連企業が集まってくるようにしたい。」と夢を語っていました。

宇宙ビジネス拡大へ 世界で進む“打ち上げ技術”の開発

ロケットの打ち上げ需要が高まる中、各国がいま、この洋上打ち上げに注目しています。中国では日本に先駆けて、去年(2019年)、洋上からの衛星の打ち上げに成功しています。一方、アメリカでは、上空を飛ぶ飛行機からロケットを打ち上げる技術の開発が進むなど、世界各地で新たな発射方法の開発が進んでいます。

宇宙ビジネスの拡大に向けての競争が激しさを増す中、宇宙産業が日本でも発展していくか、今が正念場です。日本は高性能な衛星やロケットを作る技術はありますが、産業としての規模は、アメリカなどに遅れを取っています。今後、ロケットを打ち上げる回数が増えればそれだけビジネス拡大への可能性が高まります。洋上打ち上げが定着するか、今後の行方に注目です。

取材:吉岡桜子記者(NHK水戸放送局)

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