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2020年4月12日(日)

ネット配信で話題の映画 ヘルパーの若者が初監督

新型コロナウイルスの影響で映画をインターネットで配信する動きが始まっています。こうしたなか、すでに公開中にネット配信をはじめ、注目を集めている映画があります。障害者の「自立生活」をテーマにした映画「インディペンデントリビング」。監督を務めたのは障害のある人を介助するヘルパーとして働く男性。映画の監督も、制作に関わるのも初めてでした。

「インディペンデントリビング」障害者の自立生活を描く

映画の監督を務めたのは田中悠輝さん(29)。ヘルパーとして働いています。ドキュメンタリー映画「インディペンデントリビング」の舞台は大阪。施設や親元を離れ、地域で暮らすことを選んだ障害者たちとそれを支える「自立生活センター」です。映画に登場するのは、アプリで女の子と話すのが大好きな若者、俳優になりたいと笑う元塾講師など、キャラの“濃い”人ばかりです。

自立生活の主体は障害のある本人です。車いすへの移乗や食事の調理など、ヘルパーは指示なしで勝手には動きません。思い通りにいかなくてもすべて自分の責任です。施設では制限されることが多いという飲酒も自立生活ではもちろん自由です。健康上のリスクを含めて自分で判断します。

自立生活をする土屋さん
「いいことも悪いことも自分で決めてやっていけるのが自立生活のおもしろさではないですかね。」

アメリカで始まった「自立生活運動」

障害者が施設や親元を離れて地域で暮らす「自立生活運動」は1960年代にアメリカで始まりました。日本でも70年代に活動が始まり、80年代に最初の自立生活センターが設立され、現在は全国に120か所ほどあります。「地域で生活するために必要な制度や社会の意識をつくり変える」として、障害のある当事者自身が声をあげることで、日本でも駅のエレベーター設置など、ノーマライゼーション(=等しく生きる社会の実現)を進める原動力となってきました。

「ありのまま」を撮る

「僕らのことを撮ってほしい」。田中さんはある日、介助していた男性から言われました。田中さんは映画制作会社から機材を借りて撮影を始めます。カメラを向けるうち、やりたいことを諦めない生き方に強くひきつけられました。

インディペンデントリビング 田中悠輝監督
「リスクと隣合わせなんだけれども、だからこそその意志が生きるというか。意志薄弱として生きてきた若者としてはなんか胸打たれるものがあって。こんなに強く意志を示して生きているんだなっていう感じがしたんですよね。」

ありのままの自立生活を見せよう。田中さんは彼らの「生きる証」として映画をつくると決めました。

その「ありのまま」にこだわったシーンがあります。脳性まひと知的障害がある大希さんです。18歳まで山奥の施設で育ちました。

聞き手
「施設が全然自由じゃなかった?」

大希さん
「うーん、決まっていることをやるだけで、自分で決めたわけでもないし。」

異性に興味を持つ年齢になっても、施設では女性と自由に話すことができませんでした。施設を出た今、楽しみは女性とも気軽に話せるチャットアプリです。しかし、大希さんは会話が苦手です。唐突な発言で場をしらけさせてしまうことも。映画ではその様子もありのままに描きました。

インディペンデントリビング 田中悠輝監督
「すごい純粋にイタいんですよね(笑)。でもその痛みがすごい、誰しも経験してきた痛みというか。垣根を越えられるというかなんか一緒なんだなっていう感覚になる。」

自由に、自分らしく 生きづらさに共感

自由に、自分らしく生きたいのにうまくいかない。葛藤する姿に田中さんは自分や周囲の人を重ねました。映画に登場する元塾講師のトリスさんもその1人です。くも膜下出血の後遺症で右半身のまひと失語症があります。トリスさんはヘルパーの言うことにすべて「はい」と答えてしまいます。ものごとを理解していても、自分の考えをうまく伝えることができません。そのもどかしさを笑顔でごまかします。

インディペンデントリビング 田中悠輝監督
「生きづらさの中で生きているのはいわゆる健常者であっても同じ部分はあって。全然笑えないけど笑っている人、結構いるよなと思って。障害を負ってもなお何か笑顔で取り繕って周りに合わせようとしている部分が結構いろんな人に当てはまるんじゃないかなと。」

生きづらさを抱える生き方をありのままに描いた作品は次第に共感を呼びました。少しずつ上映する映画館が増えつつあったところに、新型コロナウイルスの感染拡大。そこで、公開中ではありましたが、インターネットでの有料配信に踏み切りました。田中監督は少しでも多くの人に障害者が自立して生活する姿を見てほしいと考えています。

取材:菱木信大記者

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