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2020年4月24日(金)

【更新版】「“闘い”ではなく“共存”へ」ノーベル賞受賞者・京都大学山中伸弥教授

【4月28日更新】
2012年にノーベル賞を受賞した京都大学 山中伸弥教授。なかなかゴールが見えず不安になる人も多い中、ウイルスと闘うのではなく、「共存」するという心持ちが大切だといいます。
聞き手は桑子真帆キャスターです。

(4月23日 インタビュー)

“全体像”が見えない日本

Q:ホームページを立ち上げて情報発信されていますが、現状をどう捉えていますか?

山中さん:
いま日本はかなり特異的な状況だと思います。このウイルスがどれくらい広がっているかという全体像が見えないまま対策をしています。ほとんどの国は、どれぐらい感染が広がっているかをかなり把握して、それにより多くの人が「これは大変だ」ということで活動の制限を行っています。一方日本ではおそらく実態のごく一部しか私たちはわかっていない状況です。こうした中で自分たちの活動を制限できている日本は意識が高く、すごいと思いますが、同時に現状をより正確に把握して国民に伝えていくという努力は非常に大切だと思っています。

Q:亡くなった人からウイルスが検出されたというケースもありました。

これもまだまだ氷山の一角かもしれません。全体像がなかなか把握できないので、やはり国を挙げた対策として、各地域でどれくらいまで感染が広がっているんだということを科学的に検証して、その情報を国民に逐一公開していく。そういったことが必要じゃないかと思っています。

Q:ニューヨークでは抗体検査が始まりました。抗体検査についてはどう考えていますか?

抗体検査、非常に期待しています。ただ、何の目的でやるのかということを十分に理解する必要があると思います。例えば私や桑子さんがいま感染しているかどうかを調べるのであれば、PCR検査が絶対的に必要です。
いまの段階の抗体検査は見落としや間違いもあります。ですから、一人一人の診断に抗体検査を使うというのは難しいと思います。ただ、東京都の中でどれくらい感染が広がっているのか。大阪府はどうなんだ、京都府はどうなんだ。そういう集団としての状況を把握する上では抗体検査というのは非常に役に立つと思います。「PCR検査は個々の人の診断に使う」「抗体検査は集団の状況の把握に使う」そういう目的をしっかりと理解して議論をする必要があると思います。

日本では「別の形の医療崩壊」が起ころうとしている

Q:医療体制がひっ迫してきているところも出ています。この状況をどうご覧になっていますか?

医療の状況も、日本は特異的な状況だと思います。武漢、イタリア、ニューヨークでは、重症もしくは重篤、人工呼吸器が必要で、集中治療室の入院が必要な人がワッと押し寄せて、医療のキャパシティーを超えてしまったという形の医療崩壊が起こりました。日本ではそれは起きていないんです。日本は別の形の医療崩壊が起ころうとしています。医療従事者への偏見や差別による医療崩壊です。
院内感染等が多数報告されていますが、私はこのウイルスは院内感染を完全に防ぐのは不可能だと思っています。しかしいまは院内感染が起こるとメディアが押し寄せて「何か変なことをしたんじゃないか」「対策が十分じゃなかったんじゃないか」という目にさらされてしまっています。そういう偏見や差別で医療従事者が疲弊してしまう。それによって医療崩壊が起ころうとしています。まだ重症の方がほかの国よりは非常に少ない段階なのにもかかわらず医療現場が悲鳴を上げていますから、このあたりは私たちも反省していく必要があると思っています。
どれだけ注意をしていてもこの新型コロナウイルスの感染は完全には防げないですので、患者さんが実際入院されているところは院内感染も起こってある意味当然だと思うんですよね。ぜひ最前線の過酷な状況を本当に理解していただいて、感謝の気持ちを今まで以上に強く持つ必要があると思っています。

失敗を繰り返さないためにも「大型連休は家で」

Q:目前に迫った大型連休。どんなことを意識すべきでしょうか?

私たちは3月の連休(3月20日~22日)で失敗を犯しました。2月末に安倍首相の号令でイベント自粛や休校が始まりましたが、そのとき「1~2週間が山だ」と多くの人が誤解して、その後むかえた3月の連休は国内外に旅行してしまった。それがいまの感染拡大のひとつの原因だと思います。同じ失敗を繰り返しては取り返しのつかないことになると思いますから、やはりこの4月末からの大型連休はできるだけ家にいる。こういう状況でも医療従事者とかいろいろな公共インフラを支える方は外に出て行かないとダメなんですね。人混みに行かないとダメなんです。そういう方たちを守るためにも家にいることができる私たちは家にいるというのが一番の貢献だと思っています。どうしてもおじいちゃんおばあちゃんに会いたい。年に1~2回しか会えないということもあると思うんですが、この連休はやっぱり我慢して、おじいちゃんおばあちゃんにオンラインで、コンピューターがなくても、スマートフォンでも十分心は通じると思いますんで。そういう形で、みんなで我慢したいと思っています。

ウイルスとの“闘い”から“共存”へ

Q:ウイルスとの闘い、どうなるとゴールだと考えていますか?

僕も最初は“ウイルスとの闘い”という表現を使っていたんですが、いまはもう使っていないんです。“ウイルスとの平和的共存”だと思っています。このウイルスを完全に世の中からなくすことは不可能ですので、いかに人間社会が受け入れるかが求められています。この1か月が一番の大切な時期だと思っています。 この数か月できるだけ人と人の接触を避けると。こういう努力を数か月続けて上手に上手にウイルスに入り込んできてもらえれば、大きな被害を受けずに共存できるんじゃないかと思います。その後も全く昔のように自由というわけにはしばらくはいかなくて、ある程度の我慢、ある程度の工夫が必要です。それははおそらく1年、もしかしたら1年以上続くかもしれません。

Q:闘いだと思うとこちらも身構えますが、ちょっと心持ちを変えるだけでも精神的に違うものがありそうですね。

きのう(4月22日)専門家会議で人と人との接触を避けるうえでの10個のポイントを非常にわかりやすくあげていただきました。あれは本当にすばらしいことで、あの10個を私たち皆が守れば必ずウイルスは勢いを弱めます。共存が可能になると思います。10個のポイントは全部できることです。いま日本人の規律といいますか自律性が試されている、そんなふうに思います。私たちはたくさんの危機を乗り越えてきたわけですから、今回も必ず乗り越えることができると思っています。

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