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2020年4月28日(火)

南海トラフ地震 “津波想定エリア”で高齢者施設が増加

津波から命をどう守るのか。過去の災害の教訓がいかされていない実態が、NHKの分析から明らかになりました。9年前の東日本大震災では、高齢者の入所施設も甚大な被害を受けました。入所者や施設の職員など、658人が犠牲となりました。これを受け、被災地ではほとんどの施設が、津波のリスクを避けて高台に移転しました。一方で、南海トラフ巨大地震で被害が想定される地域を調べると、津波のリスクが高い平野部で施設が急増していたのです。

この記事のポイント
◆調査で明らかになった、津波の浸水想定エリアにある入所施設の増加
◆津波の心配がない高台は土地代が高い
◆どう安全に入所者を避難させるかが課題

津波の浸水想定エリアに高齢者施設が増加

調査したのは、南海トラフ巨大地震で大きな被害が想定されている宮崎県、高知県、三重県、静岡県の4県です。津波の浸水想定エリアに位置する、老人ホームなどの高齢者の入所施設について分析。いずれの県でも、震災前の2010年と、ことし1月を比べると、施設が増えていたことが初めて明らかになったのです。中でも大幅な増加率を示していたのは宮崎県。実に3点7倍になっていました。なぜリスクの高いエリアなのに、災害弱者とされる高齢者の施設が増えているのでしょうか。

海岸線に沿って平野が広がる宮崎市。津波は最速18分で到達、最大の高さは16メートルにもなると想定されています。津波の浸水想定エリアにある老人ホームが取材に応じてくれました。海岸からおよそ1キロに位置しています。東日本大震災から4年後の2015年に開設したこの施設では、70代から90代の高齢者8人が生活しています。施設長の女性は、老人ホームを作る前から、長年この地域でデイサービスを営んできました。地域の高齢者から要望を受けたことが、老人ホームを開設したきっかけだったと言います。津波のリスクが高いことは知られていますが、それでも、入所の希望が相次いでいるといいます。

調査を進めると、宮崎市の沿岸部では人口の増加が起きていることが分かりました。浸水想定エリアに東日本大震災後 人口が増加した場所のデータを重ねて見ると、海岸線に沿って人口が増えているのが分かります。人口が増えている場所を中心に、施設が増えていたのです。

土地の価格が高い 津波の心配がない高台

背景には、沿岸部の土地の価格の安さがあります。宮崎市にも、津波の心配がない高台の土地はありますが、沿岸部よりも価格が高い傾向があります。施設を運営する女性も一度は高台での施設建設を考えました。しかし、地価が高い分、利用料もあがってしまうため、断念せざるをえなかったと言います。

施設長の女性
「入所者は年金生活ですからね、どれだけ皆さんがお金を出せるかっていう事だと思うんですよ。入所者のことを考えると、もうここに建てようって事で決めました。」

どう安全に避難させるか

津波から高齢者をどう安全に避難させるか。施設長は検討を進めています。しかし、耳が聞こえない人や認知症の人もいて、避難を呼びかけるだけで時間がかかります。さらに、入所者が寝起きする2階から外に出るにも、想定以上に時間がかかることが分かりました。いま、対策を考えあぐねているのが現状です。取材からは、津波浸水エリアに建設された他の施設でも、避難対策に苦しんでいる様子が明らかになりました。宮崎市は各施設に対して、避難計画の策定や、避難訓練を行うよう勧めていますが、施設だけで対応するには限界があるのが実態です。

全国的に見ると、ソフトとハードの両面で対策を始めている例があります。高知県中土佐町では、自治体が救命艇と呼ばれる、津波の避難シェルターを購入し、高齢者施設に貸与しています。

一方、愛媛県宇和島市では、高校生と自治会、高齢者施設が連携し、合同で避難訓練を毎年行っています。自治体や地域と対策を進めていく必要があります。また、専門家は、今後の新たな施設の建設については、規制を進める必要があると指摘します。国は、東日本大震災のあと、自治体の判断で制限ができる制度を設けましたが、これを適用した自治体は、全国でもまだ1つだけです。住宅の開発なども制限することになるため、自治体も地域の反発を懸念して、制度の利用が進んでいないからです。

防災と都市開発に詳しい 山梨大学大学院 秦康範准教授
「そもそも避難する必要がない災害リスクが低い場所に施設自体が立地するのが原則だと思うんですね。高齢者施設等の防災上配慮が必要な施設については開発を制限することが求められると思います。」

多くの犠牲者を出してしまった東日本大震災の教訓を、どういかしていくべきか。あらためて向き合う必要があると思います。

報告:齋藤恵二郎記者(社会部)・ 牧野慎太朗記者(NHK宮崎放送局)

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