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2020年5月7日(木)

【更新版】「新しい社会をつくるチャンス」ホームレスや生活困窮者支援のNPO代表 奥田知志さん

【5月13日更新】
各界の方に生きるヒントや危機を乗り越える提言をきくインタビューシリーズ。今回は、30年以上ホームレスや生活困窮者の支援を行うNPOの代表、奥田知志さんに聞きました。現場で奮闘する奥田さんが気付いたのは、「今が新しい社会をつくるチャンス」だということだそうです。聞き手は桑子真帆キャスターです。

(5月1日 インタビュー)

困窮者の現状は…

Q:今、ステイホーム「家にいて」と言われても、そもそも家がなかったり、ネットカフェが休業したりして寝起きする場所を失ったりした方もいると思います。そうした方々は今、どういう状況でしょうか?

奥田さん:
今、現状では路上の生活の方が急激に増えているという段階ではないと思います。というのは、そもそもネットカフェにおられる方々は、その日その日の支払いができた人たちでもありますし、給料とか労働の形態はともかく、有効求人倍率が1.5を超えていた時期がしばらく続いていましたから、ある程度、所持金がある方々がおられるんだと思います。
去年(2019年)、厚生労働省と一緒に「家を失った時にあなたはどうしますか」「どうされていましたか」という全国調査をした結果では、結構な数で「友人宅に身を寄せた」という答えが多かったんです。ですから、今ネットカフェにいた方々は、例えば東京都でいうとホテルの借り上げとか、都がその部分をどうケアするかという事もして下さっているので、一時的にはしのげているのではないかなと思います。

ただこれがしばらく続いていくと…。例えば今から12年前のリーマンショックの時は、9月にリーマンショックが起こっているんですね。路上に人々が溢れだしたその象徴が日比谷の年越し派遣村だったんですけども、その間が約3か月空くんですね。ですから、私は今後のことを非常に心配していまして、今見えてないから手を打たなくていいかというと、12年前に私たちは既にこういう事態を経験しているんですね。私は今回いろんな学者の方々や、いろんなデータが、リーマンショックの1.5倍、あるいは倍ぐらいの規模で経済が低迷するというふうに言われていますので、もっとひどいことになるんじゃないか。そして、それが現れるのは3か月後以降ぐらいで噴出するのではないかと。今後のことをすごく気にしていますね。

Q:今、いわゆる“3密”の環境を作らないように、炊き出しの休止や、相談窓口を閉鎖せざるを得ないというニュースも耳にします。

ある炊き出しでは、ものすごく人が増えているという報告を受けています。例えば東京都内の炊き出し場所に人が相当集まってきていると。これは2つの要因がありまして、1つはやはり、先行きの不安の中で、今、家に住んでいる人も含めて「1食助かる」というレベルにきていると思います。北九州で私たちがやっている炊き出しにも、実は地域の方々が相当来ています。もう1つ、炊き出しに人が集中し始めている要因は、炊き出しが感染防止の観点でできないと判断した団体が多いからです。
でも炊き出しという食糧支援というのは、2つの意味があって、1つは「生存権」そのものに関わる支援です。もう1つは、「あなたの事を忘れていませんよ」「孤立させません」という、ある意味、社会の決断というか、態度の表明の場所なんですね。ですからこれは、やはり私はどうしても続けたいし、北九州の場合は感染予防を徹底しながら、困窮者の方々にマスクも配りながら、続けているわけです。

そしてこれを続けるためには、やはり相談する人や、支援する人をどう守るか。医療崩壊を免れても、相談崩壊が起こる。これはまずいんですね。支援する人を支援するっていうこと、そういう観点をもう一方で持たないと。多分、医療の次は介護現場が今、一番大きな問題になると思います。介護も止められませんから。医療崩壊も介護崩壊も、人が人を支えているっていう現場なんです。私はやっぱり、支える人を支えるっていうことも大事な観点だというふうに思っています。

仕事と住まいの“同時喪失”を防げ

Q:例えば東京都が一時的に住まいを提供するなど、支援策を打ち出しています。具体的に支援としてどんなものが今、求められているのでしょうか?

今、世界中が1つの苦しみの中に置かれているわけですね。しかしよく見ると、今起こっている問題というのは、実はそのコロナ以前の社会が持っていた社会の構造的な問題とか、脆弱性というものが拡張されて露呈するっていう場面でもあるわけです。例えば格差であったり、困窮者の問題であったり、非常に不安定な就労、不安定な居住、そういうものをずっと抱えた人が、たまたまですけれども、この間、有効求人倍率が1.5を超えているとか、好景気であるって言われているとかで、就労の形態はともかくとして、生活してきたわけです。しかし、今回分かったのは、もうちょっと経済がおかしくなったら、一気にすべてがおかしくなるという非常に脆弱な社会、脆弱な基盤の上に私たちは暮らしていたということなんですね。

(去年12月の活動)

(今年4月の炊き出し)

この30年間程で日本の構造的な問題で一番変わったのは、就労と住まい方、住み方の問題ですね。一言でいうと、日本は、日本的雇用慣行で、一括採用・終身雇用っていう、1つの会社に長年暮らす。これがこの30年ぐらいで潰れまして、労働人口の4割が非正規あるいは期間雇用の人たちになったと。特にその方々の中には、会社の寮とか派遣先の会社が用意したアパートに暮らしているという、住居と仕事が一体化した働き方、住まい方をしている人がものすごく増えたんですね。こういう形態っていうのは、仕事が回っているとき、経済が回っている時はさほど問題がないんです。逆にいうと、便利なんですよね。給料ももらえて家もあるわけだから、ある意味便利なんです。でもこれが、一旦経済的な危機を迎えると、あなたもう来なくていいですよと派遣切や雇い止めにあった瞬間に、仕事を失うと共に住まいを失うという、ダブルで、仕事と住まいが同時に失われてしまうということが今回、起こるんです。もう既に起こっています。そしてこのあと、なんとか友人宅とかホテルとかでつないでいる人たちが、もうあと1か月2か月でいよいよすべてを失うタイミングが来ます。こういう事態が進むとですね、最悪は自殺か、野宿になるか、ホームレスになるかなんですね。私はこれをリーマンショックのときも経験しましたし、そのさらに10年前のアジア通貨危機でも経験したわけです。これを絶対的に阻止しなければならない。

その時に私が考えている1つの処方箋は何かというと、シェルターとかホテルとか一時的なものもいいんですけれども、次の生活が再スタートきれるような住宅そのものを用意する。で、しかもそこには「相談」が付いている。支援が付いている住宅を準備するっていうレベルのものが必要だと考えています。

更に大事なのは、住宅と仕事の分離です。今後も不安定な経済状況が続くと思うんですね。だから一時雇われても、また駄目になるっていうそれを繰り返していくだろうと。その時にも住宅・住居だけは失わないようにしたい。なぜかというと、現住所とか住所地がなければ、あらゆる手続きができないということは今回の給付金においても、マスクにおいても明らかなんですね。今後は、住宅や住居地を失わないということを再スタートの前提にする。つまり「住宅と仕事の分離」ということを、私はコロナ後の新しい社会の1つのベースに変えていくチャンスなんじゃないかなと、そんなふうにも思っています。

「心の距離は近く」に 家からできることを

Q:私たち、一人一人ができることは、どんなことでしょうか?

私はよく言うんですけど、見える距離は遠くにとりましょうと。これ、ソーシャルディスタンスです。見える距離、物理的な距離は遠く。しかし、見えない距離、心の距離は近く、と。
今、ステイホームっていう呼びかけがなされています。だけどね、私正直、それだけでいいんですかって聞きたいんですね。家にいて何もしないでじっとしていることが、本当に人の命、特に困っている人、この状態でステイホームできない人、あるいはそもそもホームがない人の命を守ることに本当になりますか?何もしないことが人を救うっていうのは、一面的ではあるけれども、それがすべてじゃないはずだ。
そうなるとですね、ステイホームじゃなくって、私は「フロムホーム」ということをこの頃、言っているんですね。「家からできることを考えましょう」と。実際、人に会いに行くのは難しいけども、家からできることがあるはずだ。で、そのことをそれぞれが考えるべきだ。現に今、全国から私の団体にマスクが送られてきたり、カンパが届いたり、さまざまな人の気持ちのつながりが目に見える形になってきているんです。

驚いたのは、10万円の定額の給付が決定された翌日に、ある初老の男性が事務所に訪ねてこられて、白い封筒を1枚持っておられました。「自分は家もあるし、今のところ年金生活でもあって、生活には困ってない」というんですね。それで、奥田さんの所だったら本当に困っている人たちのために使ってくれるでしょうと言って、まだ給付が決定されたところで、実際に現金は手渡ってもいないのに、いずれそれは来るから、先に出しますと言われて。なぜかというと、困っている人は一刻でも早い方がいいでしょうっていうことで、持ってこられたんですね。私、いやすごいなと思ってですね。そしてちょうどその翌日、今度はインターネットを通じて、メールで、やはり同じ趣旨で「自分は家もあるし、食べるのには当分困らないと思うから、送金したいので送金先を教えてほしい」という。

私はこういう時というのは何か、すごい闇に覆われているようなんだけども、本当に見なければならないもの、考えなければならないものに、どんどん人がピュアになっていく、心が研ぎ澄まされていくという瞬間でもあるんだろうと思います。そういうことは、お金だけじゃなくて、そういうこと自体のつながりが、僕ら現場の困窮支援やっている人たちをものすごく励ますし、我々を通じて、実際に困っている人たち、ホームレスの人たちや困窮者の人たちに、あなたたちのこと忘れてないって僕は口先で言っているんじゃなくて、本当にこんな人がいたんよと、こんな封筒持ってきたおじさんがいたんよと、僕その人と初めて出会って、どこのどなたかも分かんない状態で出会って、突然10万円をみんなの為に使ってくれっていう人がいたんだっていう。それを今本当に孤立して、俺の事なんて誰も覚えてないと思っている人たちに伝えることができたわけですね。これはとっても私はすごいことだと思いました。

私たちは実は、この3日前(4/28)に、大規模なクラウドファンディングを立ち上げまして、これは北九州での活動という意味ではなくて、まさに、支える人を支える、全国の支援団体を応援できるための一元化したクラウドファンディングを立ち上げました。クラウドファンディング市場では最高額と言われている1億円というのを募金目標に据えたんですね。たった今まで2日しかたってないんですけど、2日間で、700人以上の人たちが、それに応えてきたんですね。私はやはり人の心は動き出している。やっぱり、フロムホームですね、家からできることで何か自分もやりたいっていう人たちの思いが、今動き始めている。それを上手く結び付けていくのも、我々支援団体の役割だというふうに考えているわけです。

過去に戻るのではなく、「新しい社会」をつくる

Q:ぜひ、「一人一人に何ができるだろう」という発想で変わっていけたらいいですね。

多くの人が、私もそうですけども「ああ、あの日に戻りたい」って率直に思っていると思うんですよ。どこかで、あの日に帰りたい。コロナ以前の日々に、いつ元に戻れるかって、みんな考えていると思うんですよね。でもね、私はもう戻れないと思います。私たちはもう過去には戻れない。それは、コロナは収束しないっていう、そんな否定的なことを言っているわけじゃないんです。これはいつか、人類の英知は、やはり、ウイルスの対策もするでしょうし、薬も開発するでしょう。いずれこれはある程度乗り越えていけると思うんですね。でも、私は、あの日に戻れないっていうのは何かっていうと、「戻ることが、本当に幸せなんですか」ということを今、考えなければならない。コロナの状況を私たちは今、生きているんだけど、実はそこで起こっている多くの問題は、それ以前の社会が持っていた問題が増幅されているわけです。だから、あの日に戻るんじゃなくて、例えば経済がおかしくなった時に、仕事と同時に家まで失う社会が本当にいいんですか?仕事を失うことは、まああるでしょう。でも、それでも住むところを失うってことはないんじゃないのか?そういう新たな社会を、今作るという入り口にも立っていると思うんですね。

これは新しい社会、新しい世界への入口です。私はね、それはもう始まっていると思うんです。だって、これだけの人が苦しんでいるんですよね。今まで、困窮者の支援とかホームレスの支援というのは、どこかで分断されてきたんです。それはホームレスの人たちの自業自得でしょうとか、それは困窮者の人たちが結局、頑張らなかった結果でしょうって、どこかで分断されてきた。でも幸か不幸か、今回の事態は、多くの人が同じ状況の中で苦しんでいるんですよね。いろんな人がこれは自分の問題だと思える。で、そういう中で次の社会をどうしていくのかという事を、やはり今、考えるチャンスがきていると思うんです。

やっぱり人間って追いつめられると、「貧すれば鈍する」とか言いますけども、案外そうじゃない。我々の支援現場は、本当に切羽詰まった「今日生きられるか、明日死ぬか」みたいな方々と出会ってきたんですね。そうするとのんびり考えている暇はないわけです。私は「貧すれば鈍する」じゃなくって、「貧すれば出会う」し、「貧すれば考える」。人間はその時に、本当の力を発揮する。そこを私はずっとこの30数年見てきましたから、今回も必ず新しい一歩につながるというふうに考えています。

絶対社会はよくなりますよ。まだこの国は捨てたものじゃないですよ。この危機を乗り越えることと同時に新しい社会の創造へと今、私たちは一歩ずつ踏み出し始めたわけですね。

「おはよう日本」では、新型コロナウイルスによる不安が渦巻くいま、各界の方に生きるヒントや危機を乗り越える提言をシリーズでインタビューしています。
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