これまでの放送

2020年5月8日(金)

【更新版】「1人から何人に感染(実効再生産数)で判断を」 ノーベル賞受賞者・京都大学山中伸弥教授

【5月13日更新】
新型コロナウイルスの最新情報を医学研究者として一般にわかりやすく発信している山中伸弥教授へのインタビュー。先々週、先週に続いて3回目となる今回、山中教授は、1人から平均何人に感染が広がるかを示す「実効再生産数」に基づいて、今後の対策・行動を判断していくことが重要だと話しました。聞き手は桑子真帆キャスターです。(5月7日 インタビュー)

“接触8割減”は、実効再生産数を0.5に下げること

Q:前回のインタビューから、ちょうど1週間です。異例の大型連休を終え、緊急事態宣言の延長が始まった。今、率直に感じることは?

この大型連休は、いろいろな所の人出も去年(2019年)とは比べものにならないくらい少なくて、日本人、本当によく頑張ったと思っています。

Q:なかなか全体状況が見えない中で、陽性率とか、実効再生産数とか、いろいろな数字が取りざたされているが、山中さんが、今、注目している数字、データは?

僕が一番大切だと思っているのは、実効再生産数(R)という数字です。やはり、これが一番、このウイルスの今現在の力を表す数字ですから、本来は、このRに基づいて、いろいろな私たちの行動を決めていくべきだと思っています。
新型コロナウイルスは何も対策をしないと、大体1人が2.5人ぐらいに、うつしてしまう。大体、次の人にうつすのは5日くらいが平均と言われていますから、5日ごとに2.5倍、10日たつとその2.5倍ですから6.25倍と、15日たつと15倍以上と、すごい増え方をしてしまいます。これをできるだけ小さくする。特に、患者さんが増えてしまい医療従事者に負担が非常に大きくなってしまった4月初めあたりの状態では、これはもう1ではダメで、0.5くらいに減らす。5分の1くらいまで減らすと患者さんは減っていきますので、だから今、緊急事態宣言で私たちが求められていた、引き続き求められているのは、1ではなくて0.5くらいまで下げることが求められていると思います。
単純な算数というか計算で、2.5を0.5にしようとすると、会う人の数を5分の1に減らす必要があります。0.5÷2.5ですから。ということは、80%、人と人との接触を減らす必要があるということですから、8割減というのは別の言い方をすれば、Rを0.5に今は頑張って下げようということだと、私は理解しています。

Q:一人ひとりが接触を8割減らせば、実効再生産数は0.5に?

私は専門家ではありませんが、私なりに公表されているデータから計算していますが、0.5まで行っていないですけれども0.6であったり、特に大阪、私は大阪府民ですから大阪のデータも調べていますが、0.6とか0.7とか、それくらいまでは下がっていますので、それなりの効果はあると思っています。

Q:実効再生産数が明らかでない地域も?

これはあくまでも推定しかできませんので、十分なデータがあればあるほど推定の精度は、より高まっていくと思います。

Q:データの公表は相当大切なものになってくる?

データの公表とPCRの検査そのものを増やしていくことも大切だと思っています。

Q:PCR検査の中身が、新しい感染者を調べるか、陰性になった人を調べるかがあるため、実態が見えづらいと言っていたが、どのように進めていけばいい?

PCRは2つ難しいところがあります。一つは検体採取で、鼻の奥からかきとるんですけれども、この時に医療従事者に感染が広がってしまう危険があります。もう一つはPCRの反応そのもので、これは器械で行います。この両方が揃わないとダメで、今はいろいろな医師会等の努力で、かなり検体採取の体制は以前より向上してきていると思います。これからは、むしろ反応の方、PCRの反応を器械で行う方がボトルネックになってくる可能性が高いと思いますから、ぜひここは、私たち研究所でも、そういった器械が複数ございますし、技術を持った研究員、技術員もおりますので、そういう力も活用していく工夫が必要ではないかと思っています。

Q:山中さんの研究室なども、検査できる場所として考えられる?

研究室そのもので行うというよりは、こういう研究機関にあるいろいろな器械や人材を利用して、各都道府県にある研究センターのようなものを設置して、そこで集約して行う。やはり各自治体がバラバラに行うと効率が悪いです。一方で、検査会社というのは東京などに集中していますから、それ以外の都道府県というのは、なかなか検体を遠くに送るのも大変ですから、今、各都道府県の衛生研究所の公的な検査機関が中心に検査しているわけですが、それとは別に検査センターのようなものを作って体制を強化するということが必要ではないかと思います。

“抗体検査は精度を見極めた上で利用を”

Q:医療機関で調べた患者の抗体の保有率を自治体の人口規模で換算すると、公表されている感染者数と大きく乖離するという指摘もある。抗体検査について、どう見ますか?

抗体検査は、まだ開発段階にある検査です。特にアメリカを中心に、たくさんの種類の抗体検査の試薬が出回っています。キットにたくさんの種類があり、それぞれによって、ずいぶん性質が違うようです。抗体検査は、抗体があるかないか白黒をつけるような検査なんですが、どこを基準にするか、どこから上が抗体あり、どこから下が抗体なしとするか、その基準の設定によって、結果がずいぶん変わります。

Q:基準とは?

基準を緩くすると、実際は抗体がないにもかかわらず、ありと判定してしまうケースが増えます。一方、基準を厳しくすると、逆に実際は抗体があるのに、ないと判定してしまうという場合が増えますから、ちょうどいいところを設定する必要があるんですけれども、まだ十分そのあたりの解析というか、それぞれの抗体検査キットの品質というものが完全に確立していないと思います。

Q:キットによって抗体の出方が違うのか?

全く変わってくると思います。例えば、特異度という指標があり、英語で言うとスペシフィシティーですけれども、実際は抗体がない人を抗体ありと誤って判定しない、そういう割合です。これは、例えば97%とか言ったら、かなり良いキットなのではというふうに思うんですが、逆に、97%ということは、3%は抗体がないのに抗体があると判定してしまうということですから、97%の特異度の検査であっても、全員抗体がない100人の人に検査をしても、3人には抗体ありと出てしまう、そういう限界があります。抗体検査は、これから重要になってくる検査ですが、ただ、その検査の品質をしっかり見極めた上で使っていかないと判断を誤ってしまう可能性はあります。

Q:一筋縄ではいかないが、できることを試してベストな検査体制を整えていくということ?

私たちも、京都大学附属病院と協力しながら、PCR検査や抗体検査、抗原検査というものもありますが、こういったものの検証を始めております。

これからの“人と人との接触”は?

Q:今後についても聞きたいが、緊急事態宣言が延長も、地域により店再開の動き。どう見るか?

患者さんの数がかなり減って、医療ベッドに少し余裕が出て、医療従事者の方の負担が減っている地域、都道府県では、徐々にですけれども、いろいろな経済や活動を再開していくべきだと思います。そうしないと経済、社会が別の意味で崩壊してしまいますので。ただその場合も、R=実効再生産数をいったんは0.5くらいまで抑え込む必要があったのですが、患者さんの数が少なくなると、今度は横ばいでもいいわけですね。増えなければ。

Q:医療崩壊にはならない?

横ばいにするためには、Rが1なら、1人が1人にしかうつさなければ横ばいが続きますから、最初、緊急事態宣言の間は0.5まで抑え込む、かなりの努力が必要だったんですが、いったんそこで抑え込みに成功したら、1にしようと思えば、1÷2.5ですので0.4、5分の2にすればいいわけですから40%、ということは6割人と人との接触を減らすことが必要になってきます。
私たちが勘違いしてはいけないのが、決して元には戻らない、戻せない。今は8割減ですが、この後は、6割減くらいまで戻せる。その心構えで、いろいろな準備を進めていく必要があると思います。

接触6割減で、ウイルスとどう「共存」するか

Q:冷静にいま起きていることを把握する必要?

まだまだ長いウイルスとのつきあいになります。1年くらいは最低でもかかりますから、その間は6割減くらいを続ける覚悟で。ただ、検査や隔離体制が今よりもっとしっかりしてくると、6割減を5割減、もっと頑張れば4割減くらいにできるかもしれません。
また、薬が承認され、効果が証明、かかっても重症になることがあまりないということになってくると、さらに活動を緩めることができると思いますから、そのあたりは研究者の責任、役割が今まで以上に大きいと思っています。

Q:人との接触、8割減と6割減の違いとは?

8割減と6割減は、かなり違うと思います。今までの8割減の時に比べると、それより2倍活動ができるということですから。ずいぶん制約が変わってくると思いますので、私たちの研究所も2割まで研究活動を制限していますが、2割ですと基本的にはほとんどできないという状況です。4割ですと、工夫すれば相当の実験を進めることができますので、8割減と6割減では相当違うと思います。ただ私たちも決して前のようにはできないということは覚悟して、6割減らした態勢でいかに多く研究し、たくさん論文を書くかという心構えを進めています。

Q:薬は活動緩和につながる?

薬ができると感染しても入院する人が減っていきます。入院しても重症になって集中治療室に入ったり、人工呼吸が必要になったりする方が減っていきます。そうすると感染者が増えても医療従事者への負担が増えない、増えにくいということになりますので、Rが1でなくても、1.1くらいで少しずつ感染者が増えたとしても医療崩壊が起こらないことになりますので、薬、特に既存薬、他の病気で使われている薬だとすみやかに臨床に使えますので、私も非常に期待しています。
日本は有望な既存薬がたくさんあります。アビガン、イベルメクチンもそうですし、ですからかなりそのあたりは期待できるのではないかと。研究者も腕の見せ所というか、もっとがんばりたいと思います。

Q:山中さんは、ウイルスとの闘いではなく共存だと言っていたが、それが共存への道なのか?

完全にウイルスをなくすというのは、ほぼ不可能だと思いますから、いかに共存するか。海外ではウイルスとダンスと表現している人もいますので。

「おはよう日本」では、新型コロナウイルスによる不安が渦巻くいま、各界の方に生きるヒントや危機を乗り越える提言をシリーズでインタビューしています。
Page Top