これまでの放送

2020年5月21日(木)

“リモート縫製”で医療用ガウンを国産化

院内感染を防ぐために医師や看護師などが着る医療用ガウンの不足が深刻です。
これまでほとんど中国製でまかなわれてきたことが影響しています。
国は約4,500万着のガウンを確保しようと国内のアパレルメーカーなどへ生産を要請しました。
全工程を機械にまかせるのは難しく、一着一着、人が縫う工程が必要な医療用ガウン。
生産を始めた奈良県のアパレル企業の試みが業界内で“画期的だ”として注目されています。

<この記事のポイント>
◆社員8人の会社が医療用ガウン10万着の生産に乗り出す。
◆生産を可能にしたのは全国の縫製職人の力を結集する「マイホームアトリエ」。
◆めざすは国産の医療用ガウンを安定的に供給すること。

全国にいる職人たちが在宅ワークで医療用ガウンを生産

奈良県で縫製工場を営むアパレルベンチャーの「ヴァレイ」は、おもに婦人服の縫製を手がける社員8人の会社です。社長の谷英希さん(30)は、国からの要請を受け、2か月で10万着の医療用ガウンを生産すると決めました。
しかし社員8人だけで10万着を縫うのは無理です。
谷さんがこの目標を達成するために活用したのは4年前に始めた「マイホームアトリエ」という同社独自のシステムでした。全国で約200人の縫製職人が登録しています。
今回のケースでは、工場で裁断した生地を職人のところへ送り、職人は縫製をして工場に送り返します。
いわば“リモート縫製”。大勢の職人が集まって作業するのが当たり前だった縫製を、職人が在宅のまま作業することを可能にしました。このマイホームアトリエを使うことで、丈夫で質の良い医療用ガウンを大量かつ迅速に生産できるといいます。

谷さんがマイホームアトリエをつくった理由は、日本のアパレル・繊維産業の衰退が関係しています。
1990年代以降、国内繊維業の事業者数は5分の1以下に減少。谷さんは、働き場所を失った腕の良い職人が、全国に埋もれているのではないかと考えました。
インターネットで募集したり、人づてに紹介してもらったりして、少しずつマイホームアトリエを組織してきたのです。

ヴァレイ社長 谷英希さん
「今までは人が多かったので、工場に来ることができる人だけが働けば良かった。
でもこれからは人が少なくなってくる。さらに今回の感染拡大もあって、1つの場所に集まって働くということ自体が変わっていくと思う。
自宅やその近辺で働ける環境をつくっていくことは、すごく大切なこと。」

“職人の誇り”ふたたび

マイホームアトリエで医療用ガウンの生産に携わる縫製職人に話を聞くことができました。
子どもの頃から縫製が大好きだったいう山田香織さん。地元の縫製工場に就職しましたが、5年前に出産を機に退職。その後、復職しようとしたときには工場が閉鎖していたそうです。
医療用ガウンの仕事ができる喜びを山田さんは次のように話します。

縫製職人 山田香織さん
「今までやってきたことを生かす仕事ができる喜びもある。
ガウンを縫って人の役に立てることはすごくうれしく思う。」

医療用ガウン国産化への道

谷さんは、これだけでは満足しません。その先を見据えています。
医療用ガウンは、これまで値段の安い海外製品が、多くの医療現場で使われてきました。
しかし今後は、値段以上の付加価値のある医療用ガウンを開発するなどして、国内で生産する体制を維持していきたいと考えています。

ヴァレイ社長 谷英希さん
「生活や医療の現場で必要なものは国産で作る必要がある。
ものづくり企業もそこをしっかり考えながら、作っていかなければならないと思う。」

今回、谷さんの会社が生産している医療用ガウンは、出来たものから順次納品していって7月上旬には10万着すべてを国に納品する見込みだということです。

取材:越智 望ディレクター

Page Top