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2020年5月29日(金)

<取材半年>経営難に直面 医療的ケア児“育つ場”

「医療的ケア児」という言葉を聞いたことはありますか?重い障害や病気などのため、日常的に医療の支えが欠かせない子どもたちのことです。その数は全国でおよそ2万人。新生児への医療の進歩などを背景に、およそ10年で2倍近くに増えています。
こうした子どもたちにさまざまな活動を提供して成長を促し、家族の負担を減らすことにもつなげる施設が各地に設けられています。しかし、施設は経営に苦しむところが少なくないうえ、新型コロナウイルスへの対策も迫られ、困難な運営が続いています。ある施設の半年間を追いました。

<この記事のポイント>
◆「ふれあい通じ育てる」医療的ケア児の施設。
◆やむを得ないキャンセルで経営難に 「報酬の仕組み」に課題。
◆コロナ禍で特例の「訪問サービス」開始も 経営見通せず。
◆求められる「訪問サービス継続」「キャンセル見越した報酬への見直し」。

「ふれあい通じ育てる」医療的ケア児施設

北海道旭川市にある「花色」には、頻繁なたんの吸引など、医療的ケアが必要な子どもたち15人が通っています。養護学校に通いながら放課後にここに来て時間を過ごす子どもや、頻繁な医療的ケアが必要なため保育園や小学校に通うことができない子どもなど、さまざまな境遇の子どもたちに、遊びや人とのふれあいを通じて成長する機会を積極的に提供しています。

花色を設立したのは、旭川市内で夫婦で薬局を営んでいる齊藤由紀さんです。齊藤さんの薬局では医療的ケアが必要な子どもの薬を調合していて、待ち時間に親たちと話をする中で、地域に医療的ケア児の居場所が非常に少ないことを知りました。当初、齊藤さんには医療的ケア児に関する専門的な知識はありませでしたが、「なんとか力になりたい」という一心で、3年前、自費で花色を設立しました。

花色 代表取締役 齊藤由紀さん
「お母さんたちに困っているよって言われて、それを見過ごして、そのままにすることはできないと思いましたし、どんな医療的ケアがあっても、その子たちにとって、外に出ていろいろな成長をすることが、生きていくうえで、とても大事なことだと思います。」

花色に通う子どもたちには、言葉がうまく使えずコミュニケーションをとりづらい子が少なくありませんが、こうした子どもたちも、表情のわずかな変化や体の動かし方など自分なりのやり方で意思を伝えようとします。齊藤さんを含め、花色のスタッフの人たちは、それを見逃さずに子どもたちとコミュケーションを取ることを大切にしています。子どもたちがもつ社会との接点を、少しでも充実したものにしてほしいという思いです。

子どもたちにとって花色は欠かせない存在です。養護学校に通いながら週に2回ほど花色に通う小林柚奈(ゆずな)ちゃん(7)です。てんかん性脳症(SCN8Aの遺伝子異常)と呼ばれる、日本ではほとんど症例が確認されていない極めて希な遺伝子の疾患で、脳や全身の発育に重い障害があります。てんかんの発作が出やすい体質でしたが、養護学校や花色に通い始めると、生活のリズムが整い、発作は1年以上抑えられています。外に遊びに行くことが難しい柚奈ちゃんにとって、花色は楽しみの場所になっています。

柚奈ちゃんの母親
「ニコニコ笑いながら帰ってくるので、本人はすごく楽しいんだろうなと思います。花色はなくてはならない場所ですね。」

やむを得ないキャンセルで経営難に 「報酬の仕組み」に課題

子どもたちにとっても、その家族にとっても不可欠な存在となっている花色。しかし、施設の経営は存続が危ぶまれるほど苦しんでいます。理由は医療的ケア児特有のキャンセル率の高さと国の報酬の仕組みにあります。

花色 代表取締役 齊藤由紀さん
「前日までは花色に行こうと思って準備までしていても、当日の朝になっておう吐の症状が出たり、たんが出やすくなって車に乗せられない判断になったり、微熱が出たりなどがありますので、キャンセル率はどうしても高くなってしまいます。こればかりは子どもの命、体調が大事なのでしかたがないことだと思っています。」

医療的ケア児は体調のコントロールが難しく、少しの体調の変化が命に関わるので、キャンセル率が高い傾向があります。現在の国の制度では施設に来た子ども1人あたりに未就学児なら約20,000円、就学時なら約17,000円が報酬として施設に支払われます。しかし、キャンセルとなると欠席時対応加算の約900円しか支払われません。

花色では、安全で質の高いケアを行いないながら発育を促す多様な活動を提供するため、看護師・作業療法士・保育士などの専門職を含む4人の職員を常に配置しています。子どもが1日4人以上利用すると採算が合う計算でしたが、突然のキャンセルの結果、実際の利用は平均3人ほどにとどまりました。施設設立以降、赤字が出ない月はほとんどなく、積もった赤字は3年間で約600万円にのぼっています。薬局の売り上げや貯金を切り崩し、なんとか経営を続けている状況です。

花色 代表取締役 齊藤由紀さん
「子どもたちの生活の中でこうした場所はとても大事だと思って始めたのですが、個人的に出資できるところはもう限界にきています。」

コロナ禍で特例の「訪問サービス」開始も 経営は見通せず

さらに、施設を追い込んだのが北海道内での新型コロナウイルスの感染拡大です。感染すると重症化のリスクが高い医療的ケア児に施設に通ってもらうサービスを続けるのか、花色は厳しい判断を迫られました。

もしも花色で感染者が出れば子どもたちを命の危険にさらすことになります。しかし、養護学校などが休校になっている中で支援をやめれば子どもたちや家族への影響は計り知れません。
悩んだ末、花色は集団感染のリスクを避けるため通所のサービスを休止し、国が特例で認めた訪問によるサービスを始めることにしました。訪問する職員は最少人数まで絞り込み、体温チェックや手袋の着用、持ち物の消毒など感染防止対策に神経をとがらせながら訪問を続けています。

花色に通っていた柚奈ちゃんは、外出自粛の期間に生活のリズムが崩れ、てんかんの発作が再発していました。30時間以上寝付けないこともあり、母親は、本人はつらい思いをしていると不安を募らせていました。
花色は、柚奈ちゃんの自宅を週2回ほど、1回1時間から2時間訪問。リハビリや歌や紙芝居などの遊びを通じて、柚奈ちゃんが調子を取り戻せるよう精いっぱいの時間を過ごしました。こうしたふれあいを通じて、柚奈ちゃんの生活のリズムは徐々に整い、状態は落ち着いてきたといいます。

柚奈ちゃんの母親
「訪問だけでも来てもらえるってわかって、すごくうれしかったです。柚奈、花色大好きだもんね。」

花色は、休止から1か月余りで施設での活動を再開しました。訪問と合わせて行うことで「施設には行けないけれどサービスは受けたい」というニーズに応えることができ、経営は何とか維持できる状況だといいますが、今回の特例による訪問がいつまで続くかは未定で、経営の先行きは見通せていません。

花色 代表取締役 齊藤由紀さん
「どんなに赤字でもなんとかカバーしてやっていきたいです。この子たちがずっと育っていくまで寄り添って、ずっと一緒に生きていきたいと思います。」

求められる「訪問サービス継続」と「キャンセル見越した報酬への見直し」

安定した経営を可能にするために何が必要か。取材を続ける中で、例えば2つの方策が考えられると思いました。

<① 訪問のサービスの継続>
1つは、特例の訪問のサービスを感染の終息後も続けることです。医療的ケア児は体調の管理が難しいので、よりサービスを利用しやすい形が求められるのではないでしょうか。今回取材した保護者の中にも「体調が心配で家の外には出せないけれど、訪問であれば使いたい」と、新たに始まった訪問のサービスの継続を求める声がありました。

<② キャンセルを見越した報酬制度への見直し>
もう1つは、突然のキャンセルを見越した報酬の制度への見直しです。都市部ではキャンセルが出ても、利用者が多く、キャンセル分を補填できる場合もありますが、地方では難しいという実情があります。
医療的ケア児は都市部にも地方にも住んでいます。住む場所によって成長の機会に格差が生じない制度づくりが求められると思います。

今回取材したわずか半年のあいだでも、子どもたちが着実に成長していることをはっきりと実感できました。言葉を使ったり体を動かしたりするのが決して得意ではない子どもたちですが、花色に通い続ける中で表情がより豊かになったり、問いかけに対してその子ならではの表現方法で意思を伝えられるようになったりと、変化を目の当たりにしてきました。子どもたちが子どもたちの中で成長し、大人が一人一人にしっかりと向き合うことが、子どもたちの可能性を広げていくと感じます。
代表の齊藤由紀さんが、病院でも養護学校でもない、街角の一軒家で始めた“花色”。そこには、子どもたちがそれぞれの場所で、世界に1つしかない花を咲かせてほしいという願いが込められています。子どもたちの可能性を広げ、その家族を支える制度がよりうまく機能して、花色のような場所が全国各地に増えていくことを願ってやみません。

取材:高崎哲次郞カメラマン(旭川局)

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