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2020年6月1日(月)

企業が注目する“雇用シェア”

新型コロナウイルスの影響による経営悪化を理由に、5月に解雇や雇い止めにあった人の数は、1万2,000人あまりに上りました。雇用への影響が深刻化する中、人手があまっている企業と、足りない企業の間で「雇用をシェア」する新たな取り組みが始まっています。

広がる“雇用シェア” 社員を守る新たな経営手法

遊園地やキャンプ場など、国内外のレジャー施設を予約するウェブサイトを運営する、東京都内のITベンチャー企業です。外出自粛の影響でサ-ビスの利用者が激減し、4月と5月の売り上げは前の年に比べ95%減少しました。

アソビュー 山野智久社長
「信じられないですね。ずっと創業から右肩上がりに成長してきたので。」

経営が大きな打撃を受ける中で突きつけられたのが、社員130人の雇用を守れるかどうかでした。現在、雇用を維持するために従業員を休ませて休業手当を支払う場合、雇用調整助成金を使えば、費用の一部が国から支給されます。しかし申請から支給まで1か月ほどかかり、手続きが煩雑だという声も出ています。そこで山野さんが活用したのが「在籍出向」という労働上の契約。従業員の籍を残したまま、他の企業で1年間働いてもらう、いわば企業間で雇用をシェアする取り組みです。

出向させるのは、人手不足に悩んでいる企業で、相手の経営者と直接交渉し、出向前後で同額の給料を保証してもらいます。従業員を解雇せずに、人件費を減らすことができるのです。山野さんの会社では、5月から、社員のおよそ2割にあたる25人が出向先のIT企業などで働いています。

アソビュー 山野智久社長
「一度採用した仲間、あるいは作ってきた文化をゼロにしてしまうと、これをいちから採用したり、文化を作っていったりするのは非常にコスト・時間・労力がかかる。一時的に下がってしまった需要に対応するために、このようなアイデアが出てきた。」

この仕組みを使って、別の会社に出向している長倉雄希さん(29)です。1年前にウェブデザイナーとして山野さんの会社に転職し、ホームページのレイアウトなどを手がけてきました。

社長から「在籍出向」を告げられた時は、戸惑いを隠せなかったと言います。

長倉雄希さん
「入社して1年でちょうど事業やサービス内容を理解してきたところで出向になったので少し残念な気持ちではあったんですが。」

長倉さんの気持ちを安心させたのは、出向の意図や、経営状況などを社長が丁寧に説明してくれたことだったと言います。長倉さんの出向先は、インターネット上で業務委託の仲介を行う会社。事業拡大のまっただ中で人出が不足しており、前の職場と同じく、ホームページのデザインを任されています。

長倉雄希さん
「アイデアを出してデザインにして形にするところは同じです。会社の規模感も2倍ですし上場もしていますし、多くを学べると思っています。」

“人余り”と“人手不足”企業のマッチング 2週間で60社が…

山野さんは、この「在籍出向」をより多くの企業が活用できるよう、先月(5月)半ばに一般社団法人を立ち上げました。ルールをまとめてSNSで発信したところ、社員を出向させたい企業10社と、受け入れたい企業50社が集まり、雇用のシェアを始めています。

この取り組みに参加する企業側も、人手の確保以上のメリットを期待しています。ふるさと納税の仲介サイトを運営する会社に出向している立﨑衣織さんは、3年前から旅行者の荷物預かりサービスの会社で広報として働き、観光施設や飲食店などとの対外的な窓口を担ってきました。

新たな会社では、そのコミュニケーション能力を生かして、会長直属の新規事業を生み出すプロジェクトの一員として働くことが決まっています。

立﨑衣織さん
「成長の機会になると思っているので楽しみ。」

トラストバンク 川村憲一社長
「新しく出向された方が入ってくると、どんなことがそこで生まれるのだろうと非常に興味もありますし、いろいろな刺激になっていくというのはすごく感じています。」

“雇用シェア” 企業で活用するためには

「在籍出向」とは一般的には企業が、人事交流や雇用調整などの目的で社員をグループ会社などに出向させるための契約です。この仕組みを、資本提携の有無や業種の枠を超えて、社員の雇用を守るために企業が活用し始めているんです。注意すべきは「人材派遣会社」とは違うため、社員を動かすことで企業が利益をあげてはならず、あくまで「緊急避難的な措置」だという点です。労働市場の問題に詳しいリクルートワークス研究所の中村天江主任研究員専門家は「雇用シェアは、今回の新型コロナウイルスを受けてアメリカや中国などでも始まっており、今後も災害などで雇用危機が訪れた際に生かせるのではないか」と指摘しています。いま多くの企業が経営危機に直面しており、働く人の生活が脅かされています。こうした動きなどを通して、少しでも雇用が守られてほしいと感じます。

取材:上原直大ディレクター

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