これまでの放送

2020年6月7日(日)

制約ある生活を乗りきるには 宇宙飛行士 若田光一さん

閉鎖空間である国際宇宙ステーションに約10か月間滞在し、遠く離れた地球の管制室と交信する“究極のテレワーク”で任務を遂行した若田さん。私たちがいま直面する制約の多い生活をどう乗りきるべきか。エールともいえるメッセージを語りました。聞き手:新井秀和キャスター

(5月25日インタビュー)


離れた相手と心通わせるテレワークを

若田さん:
テレワーク中の方も多いと思いますが、宇宙も究極のテレワークで、全部オンラインでやっています。ふだんの何気ない会話、きのうは夕食に何を食べたとか、どこで食べたといった、たわいもない発言や会話が、実は大切なコミュニケーションの潤滑剤になっていると思うんですね。

Q:余分な事をしゃべらずに、効率的に会議を終わらせるというのが求められている気がするんですけれども、そうではないんですか?

宇宙ステーションのコマンダー(船長)だった時、(地球にいる)飛行管制官の誕生日には必ずメールを書いていました。お互いの気持ちを通い合わせられるように。オンラインの時には、ふだん以上に積極的に行うことで、普通の生活と同じような会話ができるのではないかなと感じました。

それからどんな時も、ユーモアを忘れないことです。緊迫した状況で笑いが起きると、カメラのズームを引いたように、細かいところしか見ていなかったことの全体像が見えてきます。『こんなことで悩んでいたのか。実はこうすればいいじゃないか』と。新しいアイデアや解決策は、そういう笑いがあると出てくるケースが多いのかなと思います。どんな苦境にあっても、みんなの気持ちをリラックスさせて前に物事を進ませてくれる、その原動力はユーモアだと思います。

“外出自粛”どう乗りきる?

Q:まだ外出を自粛せざるをえないとか、家の中に閉じこもらなければいけないこともあると思いますが?

私は、大きな旅客機くらいの容積しかない国際宇宙ステーションの中で過ごしました。閉鎖空間に半年滞在した経験から、とても大切だなと思うのは、ふだんの生活からリズムが変わらないようにすることです。例えば月曜日から金曜日までの平日は、日課を決める。週末は休み、決して無理をしない。就寝時間もきちんと取るということが、心と体の健康には重要だと思います。日課に運動の時間を短く入れることも大事です。私は毎朝、仕事をする前に30分から1時間、有酸素運動か筋力トレーニングをやっています。生活に運動を取り入れることで、心理的にもストレスが発散できているのかなと思います。よく私も一緒にやらせていただいていますが、NHKの『みんなで筋肉体操』という番組が、時間的にとても短くて、非常にきつくてとても効率的です。短い時間でも運動することは、地上でも宇宙でもとても大切だと思います。

先の見えない不安とどう向き合う?

若田さんは以前、宇宙開発が中断に追い込まれた時期を経験しています。2003年、スペースシャトルコロンビア号の事故が起き、仲間の乗組員7名が亡くなったのです。その後、計画再開の見通しが立たない中でも、若田さんは宇宙飛行の安全性を高めるための研究開発を続けました。

Q:若田さんも、先が見えない時期を過ごされたことがあると思いますが、そういう時に私たちはどんな気持ちを持てば乗り越えられると思いますか?

自分でどうすることもできないことで悩んだり、いま自分ができないことを考えたりするのではなくて、いま自分ができること、すべきことは何かを見極めて、前に進むように努めてきたと思います。行動なり仕事なりで迷った時には、『いまなぜこの仕事に取り組んでいるのか』と。新型ウイルスのことでいえば、『なぜ3密を避ける必要があるのか』という、もともとの理由に立ち返ってみることで、『いま自分がしなければいけないことは何か』を再認識できるのではないでしょうか。そこから始めてみることが大切ではないかと思います。振り返ってみると、つらいなと思っても試行錯誤を繰り返して、工夫しながらも前に進もうと努力している時が、一個人でも組織でも、一番成長している時だと思うのです。ですから、つらい時にもそのことを忘れずに努力したいと思っています。

世界と ともに乗り越えて

Q:いろいろな国の方たちとお仕事されている若田さんから見て、新型ウイルスと闘っていく上で、何が大切だと思いますか?

分断ではなく、やはり世界各国がきちんとコミュニケーションをとって協調していくことが不可欠だと思います。(新型コロナウイルスは)地球上の人類全体に対する挑戦ですので、それを克服するためにはワンチームでなくてはできません。世界の分断に陥ることなく、地球上の人類という集団的な単位を意識して、いわば宇宙から地球を俯瞰ふかんするような視点で人類の将来を考えることで、世界中から意識を合わせて前に進んでいくことができるのではないかと思います。われわれはこれからも多くの困難に直面すると思いますけれども、この新型コロナウイルスを乗り越えたというノウハウや教訓が、次に襲いかかるであろうさまざまな困難を克服するための力や強靭きょうじんさに変わっていくのではないかと思っています。

「おはよう日本」では、新型コロナウイルスによる不安が渦巻くいま、各界の方に生きるヒントや危機を乗り越える提言をシリーズでインタビューしています。
Page Top