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2020年6月7日(日)

10万円が受け取れない?路上生活者に給付のハードル

新型コロナウイルスの経済対策として1人当たり10万円の一律給付が始まっています。対象は、住民票が登録されているすべての人で、自治体に申請すれば、国籍を問わず、誰でも受け取ることができます。
しかし、路上生活者、いわゆるホームレスの人たちからは受け取れないという声があがっています。申請にあたってどのようなハードルがあるのか取材しました。

<この記事のポイント>
◆仕事がなくなり収入を絶たれるなど深刻な影響が及ぶ中、路上生活者にとって給付金は命を守るためにも重要な支援に。
◆給付には住民票の登録が必要だが、削除され申請できないと訴える路上生活者も。
◆国は「住民票の再登録ができれば給付対象」とするが、再登録も簡単ではない現状が。

住民票がない!路上生活者 給付を阻むカベ

渋谷区で行われている路上生活者向けの炊き出しは、新型コロナウイルスの感染が広がってから、利用者は急増し、以前の1.5倍近くになっていると言います。日雇いの仕事などが減少したことで、食べものが買えなくなる人が増えたと見られています。

70代 男性
「いまは仕事がまるっきりないよ。苦しいね。半端ではないよ。こんなの初めてだ。」

支援を行う男性
「不況が長引くほど飢餓線上に追いやられる人は多くなってくるような気がします。本当に心配です。」

10万円の給付金について、政府は、すべての人に給付するとしていますが、必須の条件となっているのが、住民票の登録です。住民票は現在住んでいる1つの自治体でしか登録できないため、給付金の二重の支払いを防ぐことができるからです。
都内で路上生活をしている30代の男性は、以前、公園の清掃などで月5、6万円の収入を得ていました。しかし、新型コロナウイルスの感染防止を理由に仕事が取りやめとなり、収入はゼロになりました。

30代 男性
「手元のお金は1,000円ないです。各地の炊き出しをまわって食いつないでいます。」

給付金の申請のためには、住民票が必要だと聞いた男性は、2年前に住んでいた長野県の自治体に相談したところ、住民票が登録されていることが分かり、申請を受け付けてもらえることになりました。男性は、10万円で新たな仕事を探し、生活を立て直せると期待しています。

しかし、男性のように申請を受け付けてもらえる人ばかりではありません。支援団体が聞き取りをしたところ、多くの路上生活者が住民票の登録がなくなってしまっていることが分かってきました。

70代 男性
「住民票はないな。住んでいた家はもうないし、建物も何もない。」

50代 女性
「最後は千葉で住民票が消えてるはずです。次に住むところが決まらないと住民票は登録できないから、給付は無理だろうね。」

なぜ住民票がなくなってしまうのか?総務省によると、自治体は住民の実態を調査し、居住が確認できない場合、本人への通知を試みたうえで、住民登録を削除することになっているからです。こうした調査は住民基本台帳法に基づいて行うことになっていて、一般的に年に一回程度とされています。
路上生活者たちは、国や自治体に対して要望をあげ始めていて、この日は当事者団体のメンバーが渋谷区役所を訪ね、区役所の庁舎に一時的に住民票を登録することができないかなど、相談をしました。

当事者団体 小川てつオさん
「みんなお金は全然ないし、食事もとりにくくなっている。本当に困っている人に10万円が確実に渡る方法を考えていただきたい。」

渋谷区は、居住の実態がない区役所に住民登録を認めるのは、「本来の住民票管理の業務に支障をきたす」と難色を示しています。また、「渋谷区だけで独自の対応は行えない」として、「総務省に新たなシステムの構築などを求めている」としています。

路上生活者への給付 どうすれば?

こうしたなか、政府も路上生活者に給付を行いたいとして、特例措置をとっています。住民票がない人でも給付金の申請期限までに登録しなおせば、給付を受けられるというものです。

登録する場所の具体例としては、自治体が運営し、路上生活者の就労による自立を目指す「自立支援センター」や路上生活者が寝泊まりに利用することもあるネットカフェなどを挙げています。
しかし、これについては課題も指摘されています。自立支援センターは就労自体が困難な高齢者や障害のある人は入所が難しいのが現状です。また、渋谷区の自立支援センターは定員の9割以上が埋まっています。ネットカフェは、今も東京都では休業要請が続いているうえ(6月7日時点)、住民票を置かせてくれる業者はわずかだとされています。

一方、生活保護のような従来の福祉制度を利用するという選択肢もあり、実際に支援団体には「生活保護を受けたい」という相談も増えています。しかし、東京23区では4月の生活保護の申請が、去年(2019年)の同じ月と比べて40%も増加していることなどから、速やかな支援が受けられるか分からない状態だといいます。
路上生活者の支援に携わる大学教授は、この給付金をすべての人に平等に行き渡らせるため、住民票以外を用いた方法も含めて検討することが重要だと話しています。

高千穂大学 木村正人教授
「路上で事情があって住所を回復することができない方も、さまざまなサービスにアクセスできるような社会を作ることが根本的には求められている。給付金をきちんと届けることができるかどうかは、私たちの社会が問われていることだと思います。」

取材:重田竣平ディレクター

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