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2020年6月16日(火)

建築家・隈研吾さんが語る “アフター・コロナ”の建築

国立競技場や高輪ゲートウェイ駅など、注目の大型プロジェクトに数多く携わってきた建築家・隈研吾さん。新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、これまでの建築の課題が見えてきたと言います。“アフター・コロナ”の建築、そして都市の姿とは―。都内にある隈さんの建築事務所で、桑子真帆キャスターが聞きました。

(6月10日インタビュー)

仕事や生活の変化が建築を考え直すきっかけに

Q:新型コロナウイルスのニュースが伝えられるようになって半年以上になりますけれども、隈さんの仕事に変化・影響はありますか?

隈さん:
世界中に工事現場があるんだけど、ストップしている現場もある。プロジェクトの将来が見えなくなっちゃって、ホールド(中断)したいっていう人はたくさんいますね。

Q:暮らしのほうはどうですか?

歩くようになった。(外出自粛が続いて)自分でも体調が悪いなって思ったので、ちょっと歩いてみたら、がぜん体調が良くなった。歩きながらのほうが、発想もわいてくる。何か思いつくと、すぐに連絡をとって「あそこをこうしよう」とか「ここの形をこうしようよ」とか。歩きながら、まちの中で仕事するっていうふうに、僕はなった。こんな公園あったんだとか、こんな道あったんだっていう発見もあって…。職場と家の往復だけで、いかに今までの生活が貧しかったのかっていうのを感じましたね。今までの建築家とか、建築業界っていうのは“箱”をつくることで食ってた。でも、それが結局人間を幸せにしなかったかもしれないっていう、すごい反省をしなきゃいけないと思ったわけですよ。

見えてきた“箱”建築の課題

隈さんが指摘する“箱”とは、コンクリートやガラスなどでつくられた、気密性の高い建物です。多くの人を1か所に集め、効率的に仕事をさせるために、大きく、高い“箱"をつくり続け、出来上がった現代の都市。その問題点が、ウイルスの感染拡大をきっかけに浮き彫りになったと、隈さんは言います。

今回で言えば“3密"の空間が、この“箱"の中だった。20世紀になって、“箱"をどんどん積み重ね、超高層の“箱"で仕事をするのが一番効率がいい、超高層の“箱"を持っている都市が一番かっこいい、新しいみたいな感じで、“箱"の中にいたら、効率よく仕事をしているような気になっていたんだけど、実はストレスがすごくいっぱいたまっていた。効率性だって、いまのITの技術をもってすれば、“箱”の中に一緒に詰め込まれる必要なんてなくて、むしろ詰め込まれることで不効率のほうが多かったかもしれない。

Q:リモートワークを始めて、自分のぺースで仕事ができるようになったという声も聞きますよね。

ITの技術をもってすれば、昔から可能だったんだけど、気付かないふりをしてたって感じはしますね。“箱”は便利だっていうふうに思い込まされて、どんどん人間は自分を不幸にしていったんじゃないかなっていう気がしますね。

Q:住まいに求められることも、これから変わっていくのでしょうか?

そうですね。“箱”型の都市の住まいというのは、“箱”で仕事を効率化して、住まいは“箱”の外、郊外にあって、そこではなにしろゆっくり休養して、朝、鉄の“箱”に乗って通ってください、みたいな感じだった。この郊外住宅っていうのは、実際人間の住まいとしては、すごく変な住まいだったと僕は思う。

Q:変ですか?

(もともと)住まいは、働くこともできるし、子どもを育てることもできるし、家族団らんもできるっていう多目的なものだったんだよね。ある意味では、住まいは住まいとして完結していた。その住まいの、働く部分が肥大化して、どんどんオフィスになって、“箱”になっていく。都市は、そこからスタートしていった。逆に言えば、どんどん住まいが抑圧されて、郊外に追い出されていった。都市の進化というのは、実は進化のふりをして、人間をどんどん郊外に追いやって追いやって…という感じだった。ここまで見直す必要があると思いますね。

“アフター・コロナ”の都市と住まい

Q:隈さんは、まさに“箱”のスペシャリストだと思いますが、これから建築士として、どういうふうにしていこうと考えてらっしゃるんですか?

やっぱり“箱”の外を、まず考えなきゃいけないなって思って。実はそっちの部分のほうが、人間にとってはハッピーな空間で、健康な空間だったかもしれないのに、それは建築以外の部分だっていうふうに、僕らの外にあったわけです。“箱”の外っていうと、いままでは庭師の世界だとか、都市計画の世界で「建築士は“箱”をつくり続けなさい」っていう古い使命を帯びて、ずっとつくってきた。なにか、自分のことを自分で制限しちゃっていたような気がして…。でも、本当に人間の、地面を歩く人間の視点で都市の空間を考えるとか、道の空間を考えるとか、そういうことをやりたいなっていうふうに思い始めました。

隈さんが思い描く、これからの都市や住まいの姿は、どんなものなのか。そのイメージを描いてもらいました。スケッチブックに描かれたのは、日本の伝統的な都市住宅・町家です。路地に連なって建てられた町家には、建物の随所に、外気を取り入れる工夫がこらされています。建物が密集しているにもかかわらず、通気性を備えたこの町家に、これからの建築のヒントが詰まっていると隈さんは言います。

京都の町家を見ると、路地の空間がそのまま町家の中にまで入ってきて、それが人の生活の場としてあるっていうイメージ。立て込んでいるように見えるんだけど、壁や仕切りは格子だったり、和紙だったりするから、人間としては圧迫感がなくて、外と中は一体の空間だって感じで生活していたんですよね。この空間モデルを、もう一回いまの技術を使ってつくれるんじゃないかっていうふうに、この期間僕はいろいろ考えましたね。

Q:都市にはビルが立ち並んでいますよね。ここから、かつての路地を大切にする空間ってどうやってつくるんですか?

例えばね、都市の中には空きビルとか空き家とか、すごく多いわけ。そういう使われてないものがたくさんあるんだけど、実は見捨てられていたんですよね。その部分をもう一回うまく再活用していく。これをやってみたいなっていま思っているんですよね。

Q:隈さんは、生き生きとしていらっしゃいますね。これまでの常識が通用しない、大変な時代になるという思いもありますが、隈さんにとっては違うのでしょうか?

(コロナ禍を通じて)いろんなことに気付くことができた。今まで建築家とか建築業界とか、そういうものが繰り返してきたことの、何か根本的な問題点みたいなものに気付くことができたと思っていて、かえってさっぱりしたような気がしていますね。僕自身、感覚的にコンクリートの“箱”の中にいると息が詰まるっていう感じがあって。(これまでも)風通しのいい、気持ちのいい空間をつくりたいと思って、木とか和紙とかで空間をつくってきたので、なんとなく“箱”の居心地の悪さには気付いていたんだけど、それは社会のシステムだったんだっていうところまでは、なかなか気付けなかった。

多くの木材が使われている国立競技場

Q:具体的に、今度あの場所にいって、あれをやろうという具体的なイメージはありますか?

ああいう場所で仕事する場所をつくって、リモートで一緒に仕事できたら、すごく楽しそうだなとか、面白そうだなっていう場所が、いくつも思い浮かぶんですよ。そういう例を見せたいですね。

「おはよう日本」では、新型コロナウイルスによる不安が渦巻くいま、各界の方に生きるヒントや危機を乗り越える提言をシリーズでインタビューしています。
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