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2020年6月19日(金)

役者としての“動きを止めない” ベテラン俳優の心意気

緊急事態宣言が解除された5月末、ある映画の撮影が多摩川の河川敷で行われました。ベテラン俳優たちが制作費0円で作った異色作です。新型コロナウイルスの影響で映画やドラマの仕事がまだ全面再開とはいかない中で、自分たちが動きを止めてはいけないと挑むベテラン俳優たちの心意気を取材しました。

撮影期間わずか半日・制作費0円の短編映画

6月19日からインターネット上で無料公開された短編映画『ある役者達の風景』。演劇の上演中止が相次ぐ中、人通りの少ない河川敷で稽古を続ける役者たちの姿をコミカルに描いています。

映画『ある役者達の風景』

劇団員①
「えー嫌だよ、こんなところで稽古するの。」

劇団員②
「だってしょうがないじゃない。稽古場使えないんだし、3密避けられるのこんな所しかないんだから。」

劇団員①
「そのマスク小さくない?それアベノマスク?」

劇団員②
「洗ったら縮んだんだよ。」

俳優歴45年のベテラン 中西良太さんの心意気

映画を企画したのは俳優歴45年のベテラン中西良太さん(67)です。自ら台本を書き、仲間に声をかけ、全員が無報酬で製作に取り組みました。

俳優 中西良太さん
「景気が戻るまで、やっぱりどの業界も先細りになると思う。そうするといろいろ淘汰されると思うのでそこをみんなが踏ん張れればいいなと。」

演劇から役者人生をスタートさせた中西さん。現代劇から時代劇まで1,000本以上の作品に出演している名脇役です。しかし、4月に緊急事態宣言が発令されると、決まっていたドラマや映画の撮影がすべて中断。長い役者人生の中で初めてのことでした。

俳優 中西良太さん
「自分だけが仕事がなかったりとか、そういうことはありますけど。全員がなんか本当に『おいどうしてる?』『何もしてないよ』って誰に電話しても同じような答えが返ってきて、怖いくらいにダメになるんじゃないかなと思うよね。映画にしても演劇にしてもテレビドラマにしても。」

中西さんが特に心配しているのが、自身を役者として育ててくれた小さな劇場の状況です。新型コロナウイルスの影響で多くの劇場が休業に追い込まれているのです。この日、中西さんが立ち寄ったのは、後輩の俳優・布施博さんが経営する劇場です。2か月以上休館状態が続いているといいます。

6月1日に東京都が休業要請などの緩和の段階を「ステップ2」に移行して以降、劇場を開くことができるようになりました。しかし、感染対策や入場者数の制限もあり、いまだに多くの劇場が休業状態にあります。

布施さんの劇場は最大で100人近くのお客さんを収容できますが、感染防止策を徹底すると半分も入りません。このままの状況が続くとテナント料も払うことができず、年末まで持ちこたえられるか不安を感じています。劇場を作って20年、布施さんはこのままでは演劇という文化そのものが廃れてしまうと危機感をつのらせています。

俳優 布施博さん
「これから演劇を目指してる人もかわいそうですよね。ものすごくやっぱり演じる場がなくなっていくっていうか、やりづらくなっていく。」

役者が育つ原点である劇場がおかれる厳しい状況。そうした中でも中西さんは、「動き続ける」ことが大切だと感じています。

俳優 中西良太さん
「僕らは俳優とかっていう仕事を持続させることが夢であって、悪い頭でいくら考えても何も答えが出ないのかもしれないけど、でもなんだかんだいってもそこは踏ん張って生き残らないと次の答えは絶対生まれないんだよ。失敗してもいいからとにかく何か思いついたらやってみようということなんだろうかな。」

どんな逆境でも役者としての“動きを止めない”

役者としての“動きを止めてはいけない”、その思いで中西さんが企画した今回の映画。集まったのは、仕事がストップしていた俳優仲間や映画監督、カメラマンたち、総勢14人です。全員ノーギャラで、衣装も機材もみんなで持ち寄りました。

今回の映画を監督した沖正人さん
「こんな時期に、言っちゃえばみんなが暗くなる中で、よくこんなふざけたコメディかけるなって思って。僕も台本シナリオいただいたときパワーをもらったし、撮りたくなりました。」

共演したベテラン俳優 大谷亮介さん
「一般の人の代わりに苦しみ、のたうち回って、格好悪いことやって、うっぷんを晴らしてあげる。そういうお手伝いをするのが役者の仕事。」

エキストラで参加した若手俳優 豊田崇史さん
「ベテランの方でもみんなで集まってゼロから作品を作る行動力はすごい。僕ら若手もがんばろうというパワーをもらいました。」

緊急事態宣言が解除されたとはいえ、感染防止には細心の注意を払います。俳優はもちろん、スタッフ全員がマスクをつけて、手洗いを徹底。ソーシャルディスタンスを確保して撮影に臨みます。

新型コロナウイルスで変わってしまった日常。映画で描くのは、それでも舞台を目指し、演じることをあきらめない役者たちの風景です。マスクで表情が見えない中での演技。まるで舞台で演じているかのように大きな声、大きな動きで表現しました。

俳優 中西良太さん
「今だから行える、今だからやらなきゃいけない芝居っていうんですかね。いま生きてる人たちの息遣いを少しでも伝えられたらいい。」

撮影から2週間あまりたった6月15日。ついに映画が完成しました。様々な制約の中で仲間とつくった12分あまりの作品に仕上がりました。

俳優 中西良太さん
「とにかく沈みたくないんですよね、別に羽ばたくつもりもないんですけど。何かこつこつ、小さいことでいいので、何かを考えたり
思いついたりしながらやれていることが目標です。」

<取材後記>
取材を続ける中で、中西さんたちの諦めない心に強く感銘を受けました。実は私はカメラマンであるにも関わらず、足のケガのために1年半近く取材現場に出ることができませんでした。「二度と取材に出ることができないのではないか」。リハビリと向き合う日々の中でそんな恐怖感を抱き続けてきました。しかし、中西さんをはじめ多くのスタッフが逆境の中でも前向きに動き続ける姿を見て、どんな状況においてもみずからの仕事を諦めずに“続けていくこと”の大切さを痛感しました。今後も中西さんたちの役者魂を見つめ続けていきたいと思います。

短編映画「ある役者達の風景」は動画投稿サイトで6月25日(木)23時59分まで無料で見ることができます。ぜひ中西さんたちの心意気を受け取ってみてください。

取材:安井健二カメラマン(映像センター)

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