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2020年6月26日(金)

ウィズコロナ時代 コンサート再開への挑戦

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、数か月にわたって公演の中止が続いてきたクラシックコンサート。ウィズコロナの時代にも安全に公演するためにはどうすればいいのか、日本を代表するオーケストラの1つ、東京都交響楽団がさまざまな実験を行いました。取り組みを主導したのは、楽団の音楽監督で世界的な指揮者の大野和士さんです。オーケストラの「新しい形」を模索する取り組みを取材しました。

オーケストラ公演再開へ 世界的な指揮者の思い

6月中旬、東京都交響楽団の拠点である東京文化会館に楽団員60人あまりが3か月ぶりに集まりました。集合の指示を出したのが、本場ヨーロッパでも活躍する音楽監督の大野和士さんです。 日本ではオーケストラの公演再開への明確な基準が示されていないため、自分たちで動かなければいけないと感じたといいます。

東京都交響楽団 音楽監督 大野和士さん
「日本には非常に優秀なブラスバンド団体やアマチュアのオーケストラがたくさんあるけれど、『活動を再開して』と言われたときに、『どうやって?』ということが最初に来る問いだと思います。今回の実験結果を全国の音楽関係者の皆さんにも共有し、1つの参考にしてほしいと願っています。」

「安全」と「音の一体感」 両立する距離とは

大野さんの指示のもと最初に確認したのが、演奏家同士の距離です。

まず安全に最大限配慮して、2メートル離して演奏してみましたが、大野さんは違和感を覚えすぐに演奏を止めてしまいました。
オーケストラでは本来、演奏者同士が密着し互いの呼吸を感じながら演奏しています。しかし、間隔が空きすぎたことで最も大切な音の一体感が失われてしまったのです。

楽団員(チェロ)
「本来なら呼吸ですぐテンポが分かるが、それが感じられない。」

楽団員(バイオリン)
「近くの人の息遣いとか、遠くの距離の人とのアイコンタクトが2メートルも離れると難しい。」

安全を確保した上で音の一体感を失わない距離を探るため、大野さんは次に1.5メートルで試してみますが、それでもしっくりきません。
そして1メートルまで近づけたところで、ようやく納得できる音になってきました。通常よりも演奏者同士が離れていますが、チャイコフスキーの「弦楽セレナード」を合わせて演奏し、少しずつ形がみえてきました。

管楽器の飛まつ 専門家が測定

ただ、距離を詰めたときに心配になってくるのがホルンやトランペットなど管楽器を吹くときにでる飛まつです。そこで楽屋を使って管楽器10種類の飛まつを測定しました。

感染症の専門医と微粒子分析の専門家も立ち会い、科学的な見地から安全性を判断してもらったのです。

慶應義塾大学理工学部 奥田知明教授
「この装置で測れるものは目に見えるところでは出てない。」

詳細な分析の結果、「今回観測された飛まつはごくわずかで日常会話よりもリスクは高くない」と分かりました。
大野さんは安全に演奏できると判断し、全員を集めて最後の調整を行いました。弦楽器奏者と管楽器奏者の距離も通常よりは離し、音の響き方を繰り返し確認。楽団員たちも手応えを感じていました。

東京都交響楽団 ソロ・コンサートマスター 矢部達哉さん
「安全の基準が科学的なデータに基づいて一元化されていくことで、より皆さんの安心を獲得できたらいいと思っています。」

ウィズコロナ時代に生の音楽を

東京都交響楽団では、今回の実験結果をもとに7月中旬からの公演再開を目指すことにしました。大野さんは誰もがコロナの苦しさを経験したいまだからこそ多くの人に生の音楽を届けたいと考えています。

東京都交響楽団 音楽監督 大野和士さん
「音楽を何とかして絶やさないようにすることが私たちの責任だと思っています。こういう厳しい時をみんなで共有したことによって、おそらくまた新しい創造がなされるんだろうなというふうに考えたい。どんな困難にあっても音楽を必ず届けるために私たちはこれからずっと生きていく。」

東京都交響楽団では今回の実験結果の詳細な報告書を「演奏会再開への行程表と指針」としてホームページで公開しています。大野さんは、「あくまで限定された条件で行ったものだが他の団体でも1つの参考にしてほしい」と話しています。

取材:下山章太ディレクター

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