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2020年6月28日(日)

新型コロナで変わるアートの現場

緊急事態宣言が解除されてから、全国に1,200以上ある美術館や博物館などのうち約86%が再開しました。(6月28日時点・インターネットミュージアム調べ)。ただ、施設の運営はこれまで通りとはいかず、大きな変化が生まれています。

再開する施設 徹底した対策

東京・お台場にあるミュージアム「チームラボボーダレス」。光を使ったアート作品が多く展示され、撮影も自由にできることが人気で、6月初めに再開しました。来場者は施設の入り口でまず手を消毒、手で触れる作品もあることから、希望者には無料で手袋も配られます。
徹底した対策がとられていますが、大きな変化が新たな来場「予約システム」が取り入れられたことです。これまでもスマホ等から来場の日付を予約できましたが、それをさらにバージョンアップさせました。この施設の運営会社が開発し全国で導入が進んでいます。

システムを開発した チームラボ 堺大輔さん
「ボイントは『時間』を指定できるようにしたところです。予約システムを使って、来場する人は事前に日付だけなく、来場する時間を30分単位で細かく指定できるようにしました。」

ただ、予約システムを利用して、密にならないよう入場者数を制限したことは、ミュージアムの運営面に大きな影響を与えています。このミュージアムでは、新型コロナウイルスの感染拡大前、海外からの観光客も多く訪れています。1日最大で約7,000人が入場することもありましたが、いまはその半分より少なくおさえられています。そのため、入場料収入も以前に比べ半分以下に減っているといいます。

森ビル 高橋一菜さん
「人数制限をしたことによって、訪れる時間帯によっては人がほぼいないような状況もあります。いままで通りの状況にはすぐには戻れないなとわれわれも感じています。」

集客できない… 危機感募らせる主催者

入場料収入の減少に対策を始めたところもあります。福岡市科学館(福岡市中央区)で開催される人気ゲーム「ストリートファイター」をテーマにした展覧会(会期7/1~9/22)。通常夜6時までの開館時間を、夏休み期間中(8/7~19)だけ夜9時半まで延長することを決めました。来場者数の落ち込みを少しでもカバーしようという狙いです。
この展覧会を主催する西日本新聞社(福岡市)は、これまで地域を盛り上げようと多くの展覧会を企画してきました。しかし新型コロナウイルスの影響で、予定していた6つの展覧会すべてが延期や中止、今後は、土日の入場料を数百円値上げするといった方法も考えざるを得ないといいます。

西日本新聞イベントサービス 安武弘子社長
「入場者数が制限されてくると、そのぶん使える経費のキャパも決まってきます。いまでさえ地方都市には展覧会がなかなか巡回しにくいところがありますが、今後ますます厳しくなるかもと思います。」

混雑が当たり前だった大規模な展覧会

日本国内で2000年以降、入場者数の多かった主な展覧会をみると、「国宝・阿修羅展」(東京国立博物館・2009年)は95万人、「フェルメール展」(東京都美術館・2008年)は93万人、そして「ツタンカーメン展」(上野の森美術館・2012年)は100万人を超えました。
一般的に大規模な展覧会では、入場待ちの行列や、展示室で立ち止まって見ることができないほどの混雑などがこれまでも指摘されてきましたが、美術館や博物館などにとって運営面を支える貴重な収入源となってきたのも事実です。ただ、ウィズコロナの時代、こうした状態の展覧会は開催が難しくなりそうです。

美術館の“お宝” 一挙に展示して満足度アップ

こうしたなか、入場制限を逆手に、いままでとは違う魅力を発信しようとする美術館も出てきています。7月にリニューアルオープンする予定のSOMPO美術館(東京都新宿区)。これまで、約53億円でバブル期に落札したゴッホの「ひまわり」を集客の要にしてきましたが、リニューアル後は、他の作品も一挙に展示室に出そうとしています。なかには、8億7,000万円で購入したゴーギャンの作品や、25億円のセザンヌの作品、修復作業から戻ってきたルノアールの作品も。今後は入場制限で混雑することがないからこそ、名画をゆったりと見てもらい来た人の満足度を上げたいと考えています。

SOMPO美術館 中島隆太館長
「これだけのコレクションを一度に展示することはいままでほとんどありませんでした。これまでよりゆっくり見ていただけるので、いままで見つけられなかった良さを発見していただけると思います。」

5月末に再開した京都市京セラ美術館(京都市左京区)は、収蔵庫に眠る地元京都ゆかりの絵画や工芸など3,700点以上の新たな魅力を発信しようとしています。これまでなかった収蔵品専用の常設の展示スペースを設け、6月からは「夏」をテーマに約100点を厳選、展示を始めました。季節ごとに収蔵品を入れ替えることで、眠っていた地域の美術品を再発見してもらう機会を広げたいと考えています。

京都市京セラ美術館 青木淳館長
「美術館のあり方はいろいろあると思います。あの“作品たち”に会えるという、もう少し複数の見方があるのではないかと。いままでやってきたものを、“違う見せ方・見え方”にもっていけないかなと考えています。」

美術館の新しい楽しみ方へ

展覧会の企画に20年以上関わった経験のある、日本大学芸術学部の古賀太教授は、これからの美術館のあり方についてこう展望します。

日本大学芸術学部 古賀太教授
「新型コロナの影響でたまたまこういう状況になりましたが、新しい展覧会の時代、美術館の時代が訪れつつあるのではないでしょうか。地域の関連性や、その美術館の目指す方向を今後作りながら各館が個性あるコレクションを作っていけば、時間はかかるけれども豊かな美術環境が日本全国に生まれると思います。」

今は美術館や博物館などの施設側にとって大きな転機ですが、私たち「見る側」にとっても、これまでとは違った作品の楽しみ方や美術館での過ごし方を発見できる機会なのかもしれません。

取材:山内沙紀ディレクター、田中志穂ディレクター、櫻井亮記者(経済部)

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