

大友--- 今回は、映画『おくりびと』や『ヤッターマンYATTERMAN』を手がけて来られた柘植伊佐夫さんを人物デザイン監修に迎えました。そして、柘植さんとともに、もう一度衣裳やカツラをはじめ、全体的なスタイリングを、時代劇や幕末という枠を外して見直すという作業を一度やってみました。
そして、時代考証的に衣裳やカツラを単に再現するのではなく、そこにスタイリングという感覚をあえて取り入れてみようと。
大友--- 例えば、それぞれの俳優さんの顔のカタチ、頭のカタチに対して中ぞりの幅はどれくらいがいいのか?そこに乗るまげはどのくらいの長さと太さがいいのか?ということまで綿密に計算しています。
また、役者さんの地毛をできるだけ生かすように工夫しています。女性のカツラも、顔と頭のバランスを考えて、今の女性に似合うカタチや大きさにしています。単純に、今の日本人に似合う、似合わないという基準ってあると思うので、そこから見直しています。
そもそも、幕末と比べると日本人の体形も大きく変わっていますからね。考証的に再現したからといって、魅力的になるかどうかはわかりません。

発想としては、幕末という世界に役者さんたちを閉じ込めるのではなく、役者さんたちがポーンとタイムスリップして、幕末に行ってしまったとうイメージです。コンセプトは「すぐ隣にいる人」。そういう生々しい臨場感やリアルさを表現できるように、衣裳、メイク、小道具に至るまで徹底的にこだわっています。
ドラマを見た方は、何が違うかははっきりとはわからないけど、これまでの時代劇の登場人物とは何かが違う、と気づいてもらえると思います。
大友--- 演出家として、セットや小道具やエキストラの人たちなど、周りの状況をちゃんと演出しておけば、いい役者さんはそこに入るだけで、何も言わなくても演出家が何を望んでいるかわかってくれるんです。
その現場に入って来たときに、気持ちが変わるんです、いい役者さんは。福山さんは真っ先に変わりますね。右向いて、左向いてなんて言わなくても、その状況やシーンに応じた演技や感情が自然に出てくる。微妙なニュアンスがいっぱい出てくるんです。

大友--- 土佐でのシーンを撮影する前には、役者さんをほこりまみれにしています。南国土佐という場所で、当時舗装された道路もないわけですから、風が吹き荷車が通れば、砂ぼこりが舞うはずです。ですから、役者さんには衣裳を着た後、大きな扇風機の前に立ってもらって、砂ぼこり(細かなとうもろこしの粉)をぶわっと吹きかけるんです。これを、撮影前の「儀式」と呼んでいます。福山さんも、顔だけを隠してもらって、髪も衣裳もほこりで真っ白になってもらっています。

大友--- 「プログレッシブカメラ(通称30Pカメラ)」というものを使っています。これは、ぼくが以前に演出した『白洲次郎』でも使ったし、今、放送されている『坂の上の雲』でも使われていますが、これまでのカメラに比べてディテールの質感が全然違います。より深みのある映像が撮影できます。

大友--- そうですね、カットをポンポン切り替えていかなくても、映像自体に映画のような奥行きのある質感があるので、カメラの長まわしが可能です。持久力、持続力のある画が撮れる。それは、演出的にはどういうことかというと、長いワンシーンでも、役者さんに最初から最後まで一連の流れで演じてもらうことができます。
いい役者さんの場合、長いシーンになればなるほど、思いがけない感情が出てきます。長まわしの良さは、役者さんの感情がいろいろ積み重なってきて、最後はどうなるの?という想定できない感情の動きがかいま見られるということです。 そのシーンで、役者さんたちの間でさまざまな感情のやりとりがあって、最後にお互いがどんな感情にたどり着くのかは、実は演じる当人にもわからないはずなんです。長まわしは、それを引き出すための手法の1つです。
ぼくは福山さんならではの感情の変化や動きを芝居の中で見てみたい。彼の芝居はドラマや映画で何度も見ていますが、まだまだものすごいポテンシャルが眠っていると確信しています。

大友--- 1年間の撮影の中で、何度、これまでに見たことのない「福山雅治」を見ることができるか?そういう期待とともにクランクインしたんですが、最初のロケでいきなり見ることができました。これまで見たことのない福山さんの激しい芝居が! やはり福山さんは表現者として、本質的にはすごく熱くて激しいものを持っている方です。生々しい「龍馬」を演じてくれています。
ぼくは演出家として、役者にとって大切なのは「ニュアンス」だと思っています。実は、誠実に芝居をしようとすればするほど、“意味”で芝居をしちゃうんです。これは演出にも言えること、ですけどね。でも、“感情”で芝居をするとその役者ならではのニュアンスがあふれ出てくる。芝居が、俄然(がぜん)ライブになってくる。
今の長まわしという手法で、どこまで福山さんのポテンシャルを引き出せるか?それはもう、ぼくたちスタッフvs.(バーサス)福山雅治という戦いです。
また同時にぼくは、大森さん(武市半平太役)にも、香川さん(岩崎弥太郎役)にも、どんどん芝居のテンションを上げるように煽(あお)っています。彼らがテンションを上げれば、その芝居を受ける福山さんも光ってくる。きっと福山さん自身も知らない「福山雅治」が、これからも顔を出すはずです。 当初は、9話、10話くらいで予定していたテンションが、すでに5話、6話で発揮されていますから、「おいおい、この先、どうなっちゃうんだよ!」という感じですね(笑)。
完
