一緒に助かるために

お年寄りの“パニック”を想定

認知症のお年寄りが通う施設。 避難の準備を始めたところ、1人の男性がトイレに閉じこもってしまった。 職員たちは、慌てずにトイレの鍵を取り外してドアを開け、男性を抱え上げて外に運び出した。実は、震災2日前に津波注意報が発表されたとき、同じ男性がトイレに閉じこもった。 その時に対応を話し合っていたのだ。 責任者の河原明洋さんは、「有事の時に、認知症の利用者がどういう行動に出るのかある程度シミュレーションして、想定外を想定内に」と話す。

河原明洋さん(責任者)

職員の機転 地域の支え

136人のお年寄りがいた高齢者介護施設。 停電でエレベーターが動かず、職員たちは、お年寄りをシーツにくるんで運び、1階のホールへ避難させた。 照明も暖房も使えないため、ダウンジャケットと布団で寒さをしのいだ。 過酷な状況に手を差し伸べてくれたのが、地域の人たち。 井戸水を分けてくれたり、大型の発電機を貸してくれたりした。看護師長の今川弘子さんは言う。 「地域の方たちの力をたくさんお借りすることで、改善されることがたくさんある」

今川弘子さん(看護師長)

“命をつなぐ”ための備え

日頃の準備が役立ったのが、100人近いお年寄りが入所する特別養護老人ホーム。 「非常時食事対応マニュアル」を作成し、ガスコンロとガスボンベ、3日分の食材を用意していた。 3月12日は冷蔵庫に入っている食材、翌日は冷凍庫のもの・・・。 毎日3度の食事を提供することができた。 「こういう時に、こういう食事が出ると思わなかった」。 お年寄りが喜んだだけでなく、体調を崩すこともなかったと管理栄養士の吉田伸子さんは話す。

吉田伸子さん(管理栄養士)

課題は・・・

 海の近くの静かな施設で暮らす・・・。そうした立地にある福祉施設の多くが、東日本大震災で甚大な被害を受けました。 津波が迫る中で、大勢のお年寄りや障害のある人をどう避難させるのか。 また、命は助かったとしても、特別なケアが必要な人たちが身を寄せられる場所があるのか。 福祉施設は日頃から何を心がけておくべきなのでしょうか。

考えるポイント

1.過去の実例を想定した訓練
福祉施設は定期的な避難訓練をしていますが、ほんとうに避難が必要になったときに、そのまま役立つ訓練でしょうか。 たとえば、寝たきりの人はストレッチャーで運ばなければなりませんが、その車両の定員は1名です。 安全な避難場所まで、車両は何回、往復しますか。その時間を見込んで訓練をしていますか。 また、停電でエレベーターが止まっているときに、車いすの人を2階から1階に降ろすにはどうしますか。 過去の災害で現実に起こったことを教訓に、避難訓練をすることがまず大切です。
2.「ご近所」と支え合う
職員の少ない夜間などは、さらに避難が大変になります。 このとき、支援者になれるのは「ご近所」です。 日頃から、近所の方々と一緒になって避難計画の作成、訓練、見直しを重ねることで、顔と心がつながり、安全な避難にも役立ちます。 一方で、施設に被害がなかった場合には、福祉避難所として、近所の高齢者や障害者を受け入れられます。 このように福祉施設と「ご近所」がお互いに支え合える関係をつくることが大切です。
3.福祉サービスを継続できる準備
訓練では、避難が終わった後は、施設に戻って通常の福祉支援ができます。 しかし、実際の災害では施設に戻ることができません。 そのとき、避難した場所で、排泄、薬、水分補給、食事、温度管理、衛生管理、寝具・・・など、福祉サービスを継続できるように準備をしておく必要があります。

関連動画