2017年1月23日(月)

トランプ新大統領で揺れる世界

鈴木
「トランプ新大統領に、世界の政治・経済・社会が揺れています。
今夜は、スタジオに外交評論家の岡本行夫さんにお越しいただきました。」


 

河野
「早速ですが、アメリカではトランプ氏の熱狂的な支持者がいる一方で、反対派の人が50万人規模の抗議集会を開いたりしているわけですよね。
トランプ大統領の誕生の衝撃をどう見たらいいでしょうか?」

外交評論家 岡本行夫さん
「私は、大げさかもしれませんが、これから20年、25年くらい続く大時代の始まりかなと思っています。
この前の大時代の転換というのは1989年から2年間くらいの、ベルリンの壁が落ちて東西ドイツが統一されて、ソ連邦が解体していった、その時から世界というのは1つの価値に向かって、自由とか民主主義とか、市場経済とか法の支配とか、そういうところへ収れんするかと思っていたのが結局そうならずに、ここへきてロシアのウクライナ侵攻、中国の南シナ海の拡張、イギリスのEU離脱、そしてこのトランプ勝利ということで、今度はまったく新しい、漂流する世界が始まってしまうのかなという気がします。」

河野
「詳しくはまた後ほどお聞きします。」

鈴木
「トランプ大統領就任から3日。
世界と日本の動きを追いました。」

経済から外交まで 早くも広がる波紋

田中リポーター
「トランプ新政権が発足して初めてとなる東京市場の取り引きは、円高、そして株安でのスタートとなりました。
街の人たちはどう感じているのでしょうか。」

田中リポーター
「株価気になる?」

「気になる、一番気になる。
下がりましたね、案の定。」

 

「日本の経済がこの先どうなるか、かなり不安。」

「われわれの生活が直接的にすぐに何か変わるわけではない。
株価の変動で一喜一憂する必要はないかと。」

今日(23日)の日経平均株価は250円近く値下がり。
再び1万9,000円を割り込みました。
投資家の間では“警戒感”が広がっています。
その背景にあるのが、就任演説での、この発言です。

アメリカ トランプ大統領
「アメリカ第一だ!」

トランプ大統領は従来通り、アメリカの国益を最優先する姿勢を鮮明にしました。

アメリカ トランプ大統領
「保護(主義)こそが偉大な繁栄と強さにつながる。
貿易・税・移民・外交問題に関する決断は、アメリカの労働者と家族を利するために下される。」

そして、就任初日から、TPP=環太平洋パートナーシップ協定から離脱する方針を明らかにしました。

さらに、就任3日目。
金色のカーテンに取り替えたホワイトハウスの一室で、こう明言しました。

アメリカ トランプ大統領
「NAFTAの再交渉に取りかかる。」


 

NAFTA=北米自由貿易協定の見直しに向けメキシコやカナダとの協議に入ると、みずから初めて言及しました。
この発言に、日本の経済界からは…。

経団連 榊原会長
「極めて大きな影響を及ぼす懸念がある。
交渉を注意深く見守っていきたい。」


 

そのうえで、経団連として、今年(2017年)秋までにアメリカに訪問団を派遣する考えを示しました。
一方、外交も大きく転換しそうです。

22日、イスラエルのネタニヤフ首相と電話で会談。
緊密に連携することで一致しました。
選挙中からイスラエル寄りの姿勢を鮮明にしてきたトランプ大統領。
国際社会が首都と認めていないエルサレムにも…。

アメリカ トランプ大統領
「ユダヤ人の永遠の首都エルサレムに、アメリカ大使館を移転する。」

トランプ政権発足直後の22日、イスラエル政府は、占領地・東エルサレムにあるユダヤ人入植地での住宅の建設計画を承認。
パレスチナ側との和平への影響が懸念されています。
就任直後から世界を揺るがすトランプ大統領。
早くもこう宣言しました。

アメリカ トランプ大統領
「我々は今後8年間、偉業を成し遂げる。」

日本経済への今後の影響は?

鈴木
「早速、株価が下落して円高にふれて、日本経済にも影響が出ていると思うんですが、この経済についてはどう見てらっしゃいますか?」

外交評論家 岡本行夫さん
「やはりあれだけ保護主義的なトーンで彩られた就任演説ですから、経済界や市場は警戒しますね。
歴代の大統領の就任演説は必ず、自由や民主主義を守るんだという、国際社会へのエンゲージメントをうたいあげてましたね、ほぼ例外なく。
でもトランプ氏はまったく何もないでしょう。
それでNAFTA、TPPと言うわけでしょう。
特にNAFTAは日本の経済界の戦略を基本的に変えるものですね。
今までNAFTAがあるからみんなメキシコに工場をつくったりしてたわけです。
それからTPPも離脱ということで、日本はどうしたらいいかという問題については、TPPというのは各国の批准までの期間として2年間が想定されているんですね。
だからその間は、門を開いて、アメリカが方針転換してまた戻ってくるのを待つということだと思いますけど。
それから先はアメリカ抜きでTPPをつくってしまうというのも1つの手かと思いますけどね。」

河野
「先ほどおっしゃったように、就任演説では保護主義という話をしたり、アメリカ第一主義という言い方もしていましたが、アメリカが世界に関わっていく役割についての言及がほとんどなかったですよね。
アメリカはどうなっていくのかという気がするんですが…。」

外交評論家 岡本行夫さん
「そうですね。
私もあの演説を聞いていて、ちょっとショックを受けたのは、みんなが自分のことを第一に考えろと。
アメリカはもちろんそうするけど、みんなやっていいんだと。
『俺たちがその模範を示してやる』ということでしょう。
そうすると、国際公共財と呼ばれている『自由』や『民主主義』『法の支配』『人権尊重』、それから貧困国への援助とか、そういうものの担い手は誰がやるのか。
結局いなくなってしまって、みんなお互いに背中を向け合って、いわゆるゼロサムゲームの中で、中国とロシアの膨張主義がずっと広がっていくということになりはしないかと心配です。」

河野
「それが先ほど冒頭におっしゃっていた、ベルリンの壁崩壊時代のような大きな時代の転換ということになってくるわけですか?」

外交評論家 岡本行夫さん
「そう思いますね。
アメリカは『アメリカ第一主義』、中国は『革新的利益』、ロシアは『大ロシア主義』だと、みんなさまざまにやりはじめる。
そして今までは、それでも欧州がかなり現状維持勢力として、いわば世界のいかり=アンカーとして良心的な役割を果たしていた。
それがイギリスの離脱によっていなくなってしまった。
そうすると、今度はアメリカでトランプ大統領が出てきて、大西洋同盟というものが弱くなってくる。
これは日本にとっても非常に大きなマイナスになると思います。」

河野
「そのトランプ大統領の誕生は、アメリカにとっても大きな転換点となりそうです。
トランプ大統領の就任に反発する大規模なデモが世界中で起きていますが、新政権を支持できない人と、支持する人は、それぞれどんな未来を見ているのでしょうか。」

米社会の未来は 分かれる国民の声

河野
「議会の前です。
20日、トランプ大統領の就任式が行われた会場です。
まだ会場の後片付けも終わっていないところなんですが、このように、反対する人たちがあちらこちらからどんどん集まってきています。」

就任式の翌日、全米のみならず、世界に広がったデモ。
460万人が参加したと伝えられています。
首都・ワシントンでは、およそ50万人が参加。

その中に、デモの様子を描く女性がいました。
メラニー・リームさん、60歳です。



 

メラニー・リームさん
「アーティストとして感じたことを描くことで感動を伝えたい。」



 

メラニーさんはニューヨークの美術大学の教授をしています。

大統領選挙当日から、トランプ大統領に抗議する人たちの姿を描き続けてきました。
その原点は、宗教的な理由で差別を受けた幼い頃の経験にあります。
トランプ政権の誕生で再び宗教や人種による差別が増えるのではないかと心配しています。


 

メラニー・リームさん
「トランプ大統領は憎しみが再び高まるきっかけをつくった。
それにおびえている。」


 

抗議の声が世界にも広がったこの日。
メラニーさんの目に、アメリカの未来はどう写ったのでしょうか。

メラニー・リームさん
「新大統領によって、私たちの国が後ろ向きに進む可能性が高いと思う。
声をあげ続け、前向きに考えながら前進していきたい。」

 

一方、トランプ大統領を支持する人は、どんな未来を見ているのでしょうか。

就任式をひと目見ようと西海岸からやってきたボニー・ナイトさんと、その子どもたちです。

「ちゃんと撮れてる?」

就任式当日は、間近でパレードを見ることができました。 

「愛してる~!」


 

トランプ大統領は笑顔で応えました。


その晩、訪ねてみると…。

河野
「きょうはどうだった?」

ボニー・ナイトさん
「もう最高よ!」



 

ボニーさんが望むのは、家族の安全が脅かされることのない社会。
それがトランプ政権なら実現できると信じています。

ボニー・ナイトさん
「もっと多くの人に明るい未来が来ると思う。
これは後退ではない。
一部の人のためではない、私たちが望む未来を、前向きな未来を築く。
これ以上、私たちの価値観が浸食されるのを見たくない。」

分断のアメリカ 国民の受け止めは

河野
「今回、すごく対照的な2人を取材して、まさに2つのアメリカを見た思いがしていて、支持しないという人は『アメリカが後ろ向きになっているのでは』という意見だったり、支持するという人は『私たちの未来を築いてくれる人だ』と見たり、こうして2つの層に分かれて、まさにアメリカが分断しているのではという感じがしました。
これをどうご覧になりましたか?」

外交評論家 岡本行夫さん
「私はトランプ大統領を当選させたグループというのは、健全な市民だったと思うんですよ。
中心的なところに極端な人たちはいますけども、その人たちは、例えば1990年代の小さな幸せをもう一度取り返したいと。
夫や息子たちが戦場に行かなくてもよかった、工場が次々に閉鎖されていない、そしてそこそこの収入と就業機会があった、それを返してほしい。
ですからヨーロッパに吹き荒れているような国粋主義や排外主義とはあまり関係のない人たちだったんです。
ところがその人たちが選んでしまったのが、つまりワシントンのエスタブリッシュメントがわれわれから平穏な生活を奪ったんだと、だからその対極にいるアウトサイダーとしてのトランプ氏に(票を)入れた。
ところがトランプ氏という人が、融和ということに意を用いない。
就任演説だって、国民に融和を呼びかけるせりふって1つもなかったですよね。
そして支持率が40%しかない、54%が反対している。
それをトランプ大統領がさらに広げてしまう可能性があるわけです。
そうなってくると、アメリカというのはまずいことになりますね。」

“トランプ支持” 今後も続く?

鈴木
「トランプ大統領は期待に応えられるんでしょうか?
この支持は続きそうだと思いますか?」

外交評論家 岡本行夫さん
「これはわかりませんね。
経済はよくなっていくでしょう。
といっても1~2年くらいかもしれませんが。
そうすると全体が保護主義貿易になってきて、範囲も縮小していくかもしれない。
それからトランプ氏はいろいろとよく『やる』と言っていますが、犯罪率も低下させるとか。
実はもう犯罪率というのは、オバマ大統領が就任する前がいちばん悪くて、だいぶよくなっている。
失業率もここのところ10年間くらいでいちばんいいんですよね。
それよりもいいパフォーマンスをあげるというのはなかなか大変だ。
そうすると、2年後に中間選挙がありますね。
共和党の人たちが、今のトランプ大統領の物言い、あの高圧的な姿勢だと大敗する可能性だって出てくるわけです。
経済の実態が伴わないと。
そうすると、やはり共和党の幹部が大統領の政策転換を促さざるをえないということになってくると思うんですよね。
ですから、まだわかりませんね。」

トランプ政権にどう向き合う?

鈴木
「そして日本も含めて、世界はこれからトランプ大統領とどう向き合っていけばいいでしょうか?」

外交評論家 岡本行夫さん
「あまり、さいぎ心ばかりをぶつけてもしょうがないので。
大統領になってしまいましたからね、正面から向き合わなければいけない。
日本は日本であまりグラグラしないで、信じるところを言っていく。
その際に1つ救いとなるのは、国務長官や国防長官に立派な人たちが指名されていることですね。
公聴会での受け答えを聞いていると、バランスのとれた人たちですよ。
ですからまずそういう人たちと、きっちりとやっていく。
それから安倍総理自身がトランプ大統領とできるだけ早い機会に1対1の首脳会談をするというのが非常に大事ですね。
なぜかというと、首脳会談に至る事務方のブリーフィングの過程、準備の過程でトランプ大統領が日本に対する正しい認識を形作っていくからです。

とにかく日本という国とアメリカは共通の利益を持っているんだと、特に安全保障関係においては日本の利益だけではなくて、これはアメリカの利益でもあるんだと認識すれば、そこから先はだいぶ楽になると思います。
その際に閣僚の間に軍人が多いということは、日本にとってもマイナスではありませんね。
彼らは日米安保関係ということを非常に重視しますから。
ただ1つ問題は、日本の防衛費が少ないと言う可能性がありますね。
今、日本の防衛費というのはGDPとの対比でいけば世界で102番目で、とても少ない。
しかも、これからもトランプ大統領はツイッターでのつぶやきを続けると言っているわけですね。
そうすると、ツイッターで140文字の中に入ってしまう、ちょうどいいテーマなんです。
『日本はおかしいじゃないか』と。
そう言われないように、早く日本に対する正しい認識をトランプ大統領、トランプ政権に持ってもらうということが絶対に必要です。」

トランプ大統領就任 世界はどこへ?

河野
「今回、現地で就任式を取材したんですが、8年前のオバマ大統領の就任式も現地で取材しているんです。
やはり比べてみると、明らかに今回の方が参加した人は少ないし、当時ほどの高揚感はなかったんですが、それより気になったのは、トランプ大統領が翌日に『参加者はもっと多かったのに、メディアがわざと少なく報じた』と非難をしているんです。
ホワイトハウスの報道官も、初めて開いた記者会見で、結局その非難ばかりしていたんですよね。
するとトランプ政権というのは、都合の悪いところには耳を貸さずに、一方的にツイッターなどで発信するような姿勢を少なくとも今は見せているので、これが今後、アメリカ議会との関係とか、もしかしたら外交にも表れるのではないかと考えると、その辺りが非常に気になるところでした。」

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