2017年11月2日(木)

家を失う高齢者相次ぐ

桑子
「あなたが今、住んでいる部屋。
そこに、ある日、こんな知らせが届いたらどうしますか?
『賃貸契約を解除致します』。
これは、立ち退きを求める通知です。
実は今、アパートの建て替えなどで立ち退きを迫られる人が相次いでいます。」

有馬
「この背景にあるのが、高度経済成長期に建てられた住宅の老朽化なんですが、これが高齢者の場合、大変なんです。
立ち退きを求められても、新たな住居が見つからない。
そんな深刻な事態が起きていることが分かってきました。」

相次ぐ“立ち退き漂流” 家を失う高齢者が増加

東京・墨田区の近藤正さん、76歳です。
一昨年(2015年)、住んでいたアパートから突然「立ち退き」を迫られました。



近藤正さん(76)
「『建て替えるために、2年後までに出て下さい』という書類。
突然でしたから、まさかと思います。」

立ち退きを求める理由は、建物の老朽化。
築40年以上となり建て替えるため、賃貸契約を解除すると通告されたのです。

近藤正さん(76)
「右側の2階。
ここは静かだし、環境もよかったし、一生いると思いました。」




今、アパートなどで長年暮らしてきた住民が立ち退きを迫られるケースが増えています。

戦後、町工場が集まり、復興をけん引した墨田区。
高度成長期には、人口が33万人とピークを迎え、数多くの住宅が建てられました。
こうした住宅が築40年を超え、一斉に「建て替え」や「改修」の時期を迎えているのです。

区が6年前に行った調査です。
昭和55年以前の建物が区内全域に広がり、その数は、全ての建物の61%、2万8,000棟余りに上ることが明らかになりました。
区の住宅課では、立ち退きを迫られた高齢者からの相談が、この5年で3倍以上に増えています。

墨田区 住宅課 若菜進課長
「高齢化が進んでいる中、住宅に困窮するお年寄りは増えてくる。
切実な問題。」

どこにも家が見つからない

近藤さんは新たな住居を探しましたが、なかなか見つかりません。
理由の1つは、家賃の問題です。
大学卒業後、営業の仕事に就いた近藤さんは20年以上勤めましたが、その後、事業に失敗。
家族と別れ、1人暮らしになりました。
60代半ばには心筋梗塞を患い、医療費の負担が増加。
生活保護を受けるようになり、家賃にあてられるのは毎月5万円ほどだと言います。
さらに、「独り暮らしの高齢者」ということが大きな壁になりました。

近藤正さん(76)
「心臓に病気持ったりしていると大家さんも心配。
大家さんが、なかなか年寄りには貸してくれない。」




最後の望みをつなぐのは、住まいに困っている人たちの受け皿になるはずの公営住宅でした。
近藤さんは5回にわたって応募しました。
しかし、結果はすべて落選でした。

実は、公営住宅の数は人口減少を受けて、年々減っています。
新たに入居できるのは、ごくわずかです。
しかも、部屋は家族向けがほとんど。
1人暮らしの近藤さんは、平均50倍を超える倍率の抽選に当たらなければならないのです。

近藤正さん(76)
「宝くじより難しい。
4回、5回(落選)となってくると、これは絶対当たらないなと。」

対策は…

公営住宅に代わる受け皿として今、期待されているのが「空き家」です。
東京の一部の区では、4年前から空き家を活用して、高齢者などの受け皿にする取り組みが進められています。
しかし、使えそうな物件を職員が1つ1つ調査していくと、耐震基準という課題があることも見えてきました。

区の職員
「ちなみに耐震補強は?」

大家
「耐震診断は受けていない。」

建物が古く、耐震性が十分でない空き家が多く、これまで活用できたのは、わずか4戸にとどまっています。

豊島区 住宅課 小池章一課長
「印象としては非常に難しい。
耐震補強をするとか、改修費用がかかることもあり、(大家は)なかなか活用に前向きにはならない。」



立ち退きの期限が迫る近藤さん。
墨田区の紹介で、あるNPO法人を訪ねました。
ここでは、高齢者から相談を受けた支援員などが、大家と直接交渉します。
入居者が家賃を払えない場合に一時的に肩代わりするほか、入居後も定期的に訪問するなどして孤立を防ぎ、大家の不安を解消、入居を促しています。

NPO法人『ふるさとの会』 斎藤まどかさん
「(大家に)あいさつしに行って、『これからも関わっていくので』と話し、結構、手厚くやったと思う。」




こうした支援を受け、近藤さんはようやく部屋を見つけることができました。
築17年、家賃は5万円台です。

近藤正さん(76)
「ありがたい。
本当、私みたいな人に、ありがたい。
できるだけ最期まで、ここで住みたい。」

全国で急増の可能性も

桑子
「今の近藤さんは、何とか部屋を見つけられましたけど、近藤さんのような方がここ数年、相当の割合で増えているのは、とても深刻なことですよね。」

有馬
「しかも、これは墨田区に限ったことじゃないですよね。

これを見ていただきたいと思うんです。
全国の民間の賃貸住宅のうち、昭和55年以前に建てられたものは、219万戸あるんですが、これを割合で見ましょう。
こうなるんです。」

桑子
「全体の17.1%。」

有馬
「結構多いんですよね。
これらは、今後数年のうちに『建て替え』『改修工事』、あるいは『取り壊し』が行われる可能性が高いというんですよね。」

桑子
「そうすると、今後、立ち退きを迫られる人が、さらに増えていくということが考えられますよね。」

有馬
「そして今、1人暮らしの高齢者は増えていますよね。
高齢者が安心して暮らせる住居をどう確保していくのか。
これは、行き先に困る人が増える前に、できるだけ早く考え始めないといけないですよね。」

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