2018年3月21日(水)

辻一弘さん 第一人者が語る 世界の最前線

有馬
「ハリウッド映画にはいまや欠かせない特殊メークの数々。」

桑子
「実在しない生き物が本当にこの世界にいるような、ものすごい迫力ですね。」

有馬
「このメークを手がけたのは、辻一弘(つじ・かずひろ)さん。
独学で身につけた技術でハリウッドで活躍。
先日、アカデミー賞を受賞しました。
その頂点を極めた辻さんに、話を聞きました。」

世界が認めた技術とは…

有馬
「オスカー像、見せていただいてもいいですか?」

辻一弘さん
「これに入ってるんですけど…どうぞ。」

有馬
「いいですか?…あ、重いんですね。」

辻一弘さん
「すごいですよね、デザインとか。
もらってからじっくり見て“ああ、やっぱりすごいな”と思って。」

10代の頃から特殊メークを学び、ハリウッドで活躍してきた辻一弘さん。
今回アカデミー賞を受賞したのは、第二次世界大戦当時のイギリスを描いた映画「ウィンストン・チャーチル」。
主演のゲイリー・オールドマンさんから直接依頼を受け、特殊メークを担当しました。
やや面長なオールドマンさんを、丸顔の元首相、ウィンストン・チャーチルに仕立て上げました。

有馬
「今回の作品は、達成度・満足感というのはどうですか?」

辻一弘さん
「大きかったですね、いちばんだと思いますね。
チャーチルは歯が悪かったのと、もちろんお酒もいっぱい飲んでたしタバコもやっていて、それでも悪くなるんですが、加速して悪くなるんで。
それで左右の顔の非対称もあるし、あごの付き方ですよね、歯がなくなって入れ歯をしていたんで、それで顔も変わってきますから。」

“内面が表れる” 顔の魅力

高校時代から特殊メークに関心を持ち始めた辻さん。
映画の世界に入るきっかけとなったのが、この写真です。
独学で身につけた技術で、自らをリンカーンそっくりに変身させました。
この写真を、当時ハリウッドで活躍するメーキャップアーティストに送り、何度もつたない英語で最新の技術について尋ねました。
その後、技術と熱意を認められ、単身渡米したのです。
映画作りの最前線で技術を磨くうちに、人間の“顔”が持つ奥深さに引き付けられていきました。

辻一弘さん
「やっぱり人の顔というのは内面を、ある意味反射している、反映しているわけですね。
苦悩を重ねている人ほど、左右の対称さが崩れていくわけです。
それで、しっかりそれがいい意味で出ている顔と、悪く出ている顔とか、あるいは全く拒否しようとしている顔とか、いろいろあるわけですよね。
中身との葛藤とか問題とかがあった上で、それを最終的に通り抜けていろいろ達成した人の顔っていうのは、すばらしい顔になるので。」

人生を感じさせる特殊メーク

「メン・イン・ブラック」や「猿の惑星」などでその技術の高さを認められ、ハリウッドで順調にキャリアを重ねていた辻さん。
しかし、依頼の多くは怪物や架空のキャラクターなどを作る仕事。
本当にやりたいことではないと、6年前、映画の仕事から距離を置くようになりました。

辻一弘さん
「このまま自分をこの環境に置くのは無意味。
もっと意味のある人生を送りたい。」

そんな辻さんが再び映画の仕事を受けたのは、なぜなのか。
今回描くのが、実在の人物であるチャーチルだったことが大きかったといいます。

辻一弘さん
「今回のような歴史上の人物を作り上げて、ドラマとして作り上げていくということなんで、非常に大事な上に(メークに)見えたらだめ。
こういう映画をずっとやりたくて業界に出て、そういう機会が全くなかったので、これで来たのでやるべきかなと思って、やりました。」

「人の顔を作ることは、伝記を書くのに似ている」と語る辻さん。
見た目を似せるだけではなく、チャーチルが重ねてきた人生を感じさせるメークを目指しました。

主演 ゲイリー・オールドマンさん
「彼は完璧なアーティストだ。
地球上で彼にしかできないことをやり遂げてくれた。」

一歩踏み出す勇気を

今、辻さんは日本をはじめ世界各国で、若者にみずからの技術を伝える活動を続けています。
自分の意思で特殊メークの世界に飛び込み、成功をつかんだ辻さんは、日本の若者たちにどんなことを伝えているのか聞いてみました。

辻一弘さん
「日本の状況で、夢を持ちづらいと思うんですけど。
割と安全なんですよ、日本って。
快適だし、ここで住んでいてこのまま死んでも問題ないと思う。
生活しやすいし、安全で危険を感じないから、それでハングリー精神なんか出てこない。
より頑張ってもどっちみち一緒だから、この程度でいいかと思ってしまう。
『自分が何をやりたいか』見極めるのが非常に大事で。
親きょうだいとか先生、他人の意見を絶対に聞かない。
絶対に後悔するんで。

本当に自分のやりたいことっていうのは、自分にしか見えないわけですよね。
あと、すでに出た答えに沿ってやらないというのが大事だと思います。
本当に自分のやり方、やりたいことに組み合わせていかないと先に行かない。
違うことをやらないと達成がないわけですよね。
それは前例の無いことなんですよ。
そこで怖がらずに、一歩踏み出すというのが大事なんで。」

有馬
「『その一歩が踏み出せないんだ』という叫びのような声が聞こえてくる気もするんですよね。」

辻一弘さん
「それは自分を信じないとできない。
もちろん不安もあるでしょうし、劣等感もあるでしょうし、それはついてくる、当たり前なんで。
そこで大変なことをして一歩踏み出したら、その次はどんどん簡単になってくんで、それは止まらないでずっと続けること。
自分のやりたいことを見つけて、誰から何言われようと突き進んでいかないと。
人を傷つけない限りは、何をやってもいいと思うんですよね。」



桑子
「目が真っすぐですよね。
『自分が何をしたいか見極める』、それを実践してきたからこその、今回の受賞なんでしょうか。」

有馬
「辻さんが強調していたのは『自分を信じること』。
これは大変な孤独との戦いでもあるんだろうなと思いましたが、辻さんは『自分の人生について誰も責任をとってくれないし、結局、自分が信じることしかできないんじゃないんですか』と話していました。
そして、『それを10年続けてみてください、可能ならぜひ海外で1か月以上暮らしてみてください』とも話していました。」

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