2018年10月3日(水)

世界初 調査船に乗船取材

桑子
「海底に沈む巨大な、いかり。
3年前、フィリピン沖、水深1,200メートルの海底で発見された、世界最大の戦艦『武蔵』です。」


有馬
「この『武蔵』を発見したアメリカの調査チームが、先月(9月)旧日本海軍のある軍艦を探す新たなプロジェクトに乗り出しました。
NHKは世界で初めて、調査船への乗船が許可されまして、その一端を取材してきました。」

海底に眠る軍艦を探せ 新プロジェクトを独占取材

リポート:添徹太郎(国際部)

グアムの港に停泊する調査船「ペトレル」です。
全長76m、排水量は3,300トン。
深海での調査用に新たに作られたこの船に、私たちは世界で初めて乗船し、プロジェクトのスタートに立ち会うことを許されました。
船は先月6日に出港。
調査する海域へと向かいます。

添徹太郎(国際部)
「データが集められるのが、このコントロールルームです。」

初めてカメラが入る、調査船の中枢部。

このモニターには、調査船の音響装置で捉えた海底の地形が数十センチ単位で描き出されます。
船の各所に取り付けられたカメラの映像を通じて作業の状況を把握、調査の指示を出していきます。
そして、深海を調査するための探査機もこの部屋で操作します。

「AUV」「ROV」と呼ばれる2種類の潜水艇です。

これは「AUV」が得た海底の地形データです。
数千メートルもの深さの海底の様子が克明に描き出されています。
船内の居住区なども見て回りました。

7つのフロアのうち4フロアが乗組員の居室。
最上階が操だ室です。
35人の乗組員が1か月、海の上で調査を続けるための食料や物資が積み込まれています。

最も厳しい深海調査に挑む

調査チームを率いるのは、ビル・ゲイツ氏とともに巨大IT企業マイクロソフトを創業した、世界屈指の資産家、ポール・アレン氏です。

アレン氏のチームは3年前、フィリピン・シブヤン海で戦艦「武蔵」を発見。
戦後70年という節目の年にその姿を再び現した「武蔵」は、現代に戦争の悲惨さを訴えかけるかのようだと、大きな反響を呼びました。

去年(2017年)には、広島に投下する原子爆弾の部品を運んだアメリカ海軍の巡洋艦「インディアナポリス」も、フィリピン沖の海底で発見しています。
ただ今回は、これまでと比べ、格段に難しい条件で探査に挑みます。

新たなプロジェクトの舞台となるのは、マリアナ諸島の西側の広大なフィリピン海。この海のどこかに眠る旧日本海軍の「ある軍艦」を探そうというのです。
海の深さは時に6,000メートル、武蔵の時よりも5倍も深い海底での調査になる上、「インディアナポリス」のように沈没地点が絞り込めているわけでもありません。
私たちには、取材の条件として、実際に見つかるまでは探している船の名前や種類を明かさないことが課されました。

添徹太郎(国際部)
「船の上では、夜を徹して準備が行われています。」

航海初日から調査機器のチェックが始まりました。
35人のチームが2交代、24時間態勢で調査にあたります。
多くは海底油田の探査など、深海での作業経験が豊富なエキスパートたちですが…。

調査チームのリーダー
「1粒の砂を砂浜で探すようなもの。
時には不可能にも思える。」

切り札は2つの潜水艇

そこで切り札となるのが、「AUV」と「ROV」。
深海でデータを取得して調査船に送り込む、最新鋭の潜水艇です。

まず投入されるのが「AUV」。
プログラムに従って無人で海底を動き回り、地形を把握します。
「武蔵」を発見した時にも使われましたが、新型は性能が飛躍的に向上。
潜れる深さが6,000mと、今回の海域をカバーできるようになりました。
左右に音波を出して海底の地形をとらえます。
20時間後、「AUV」を回収してデータを分析。
沈没した船を探します。
データをもとに描かれた海底の地形図からは、人工物があるかどうか確認することができます。

調査チームのリーダー
「人工物があるな。」

この「AUV」の調査で沈没船の可能性がある人工物が見つかった場合、2つ目の機器が投入されます。

今度は「ROV」の出番です。
8台の高解像度のカメラとロボットアームを搭載し、こちらも6,000メートルまで潜水が可能です。
高解像度カメラの映像はリアルタイムでコントロールルームに送られ、海底に沈む船の姿を目で見て確かめることができるのです。
今回、調査する海域は1,000平方キロメートル以上。
東京23区の1.5倍以上の広さです。
1回30日間のオペレーションを、沈没船が見つかるまで根気よく繰り返します。

調査チームのリーダー
「今回の調査は難しいよ。」

「見つける自信は?」

調査チームのリーダー
「分からない。
何かを発見できる確率は、探すのに費やす時間に比例する。」

“戦争を忘れないために”

多くの戦死者とともに、今も海底深くに眠ったままの数多くの軍艦。

旧日本海軍の歴史に詳しい広島県呉市の「大和ミュージアム」の館長、戸髙一成さんは、この調査の意義を次のように指摘します。

『大和ミュージアム』館長 戸髙一成さん
「二度と戦争をしないために、どんな悲惨なことがあったか理解しなくては。
その時、沈んだ船があって、その乗組員がこの中にまだいるという現実を、過去の話ではなく今の話として捉えるためにも、(船を)探して確定していく作業は大切。」

調査を続けてきたアレン氏も今年(2018年)5月、アメリカの戦没者の追悼記念日に、こんなメッセージを寄せました。

アレン氏のメッセージ
“帰ってこなかった人たちが眠りについた場所を記録することは、祖国のために犠牲になった人たちを忘れないためなのです。”

桑子
「この探査は、敵味方関係なく、戦死者への鎮魂の思いも込められているんですね。」

有馬
「海底の戦争遺跡ですよね。
今回、調査が行われている海域は、今年、相次いで台風が発生していることもありまして、まだ具体的な成果は得られていないそうなんです。
ただ、船が見つかった場合は速やかに公表するということです。」

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