2018年12月5日(水)

玉三郎さんが指導 若手の挑戦

桑子
「坂東玉三郎さん、今月、東京・歌舞伎座で演じている『阿古屋』です。
この阿古屋、女形最高難度の役といわれていまして、平成に入ってから、この玉三郎さんしか演じてきませんでした。」


有馬
「それが今、玉三郎さんの指導で、次の世代に引き継がれようとしているんです。
大役に初挑戦するのは、2人の若手俳優です。」

歌舞伎“女形最高難度” 21年ぶり 若手の挑戦

先月29日、12月の公演に出演する俳優が一堂に会しました。

3年ぶりに阿古屋を演じる坂東玉三郎さん、68歳。
ここに並んでいたのが、今回、初めて阿古屋を演じる2人の若手俳優です。

中村梅枝さん、31歳。
女形一筋に研鑽を積んできました。

中村梅枝さん
「ありがたいかぎり。
とうとう来たというのが一番大きかった。」

中村児太郎さん、24歳。
この役を演じたいと、玉三郎さんに自ら申し出ました。

中村児太郎さん
「こんなに早くさせてもらえるとは思っていなかった。
今までに経験したことのない緊張感、怖さに直面している。」

女形の難役「阿古屋」 玉三郎の指導で継承

その2人が望む「阿古屋」。
玉三郎さんが20年以上にわたって、当たり役としてきました。

“何をいうても知らぬが真実。”

舞台は源平合戦の時代。
遊女である阿古屋は、とらわれの身です。
阿古屋は、恋人である武将の居場所を知っているはずだと、厳しく問い詰められます。
琴、三味線、胡弓(こきゅう)、3つの楽器を奏でることでその行方を知らないことを訴えます。
この役が最高難度だとされるのは、3つの楽器を舞台上で弾きこなさなければならないためです。
その継承は、異例の展開をたどってきました。

演じる俳優は、昭和33年からは中村歌右衛門さん、ただ1人。

中村歌右衛門さん(平成5年)
「わたしだけしか今しないから、絶えてしまうといけないと思って。」

そして、平成に入ってからは坂東玉三郎さん、ただ1人。
いち時代に1人、選ばれた者しか演じることがなかったのです。

坂東玉三郎さん
「(自分が)初演の時は、国立劇場でもう頭ぱんぱん状態で(舞台に)出て行った。
今回も2人とも、そうだと思う。
しかし2人もこの若さで3曲が弾けるわけで、やろうと思えばできる。」

2人は、3つの楽器を稽古してきた成果を玉三郎さんに認められ、阿古屋への抜擢が決まったのです。
2人には、阿古屋を務めるにあたって、玉三郎さんから繰り返し言われてきたことがありました。

中村梅枝さん
「阿古屋であることを忘れないで、ですかね。」

中村児太郎さん
「3つの楽器を奏でるだけでなく、役の中で演じなさいと、いつもおっしゃっていて。」

楽器を、ただうまく演奏するだけではいけない。
阿古屋になりきって演奏することで、はじめて芝居になるというのです。
出演が決まってから1年。
3つの楽器の稽古は毎日欠かさなかったという2人。
しかし、実際に舞台で着る衣装を付けて稽古すると、「阿古屋になる」どころではありませんでした。

“何をいうても知らぬが真実。”

衣装の重さがおよそ20キロもあり、手を上げておくのも難儀です。

坂東玉三郎さん
「ちょっと反りすぎ。」

さらに、衣装には厚みがあるため、ふだんと同じようにはうまく手が動かせません。

中村梅枝さん
「こんなに違うんだ。
全然動かない。
手が動かなくなる。」

中村児太郎さん
「この衣装きて、おじさま毎日やってたんだ。
ただ単純にすごいなと思った。」

中村梅枝 初挑戦の難役 阿古屋の心で…

それでも梅枝さんは、阿古屋とはどんな魅力を持った人物なのか、考え続けていました。
阿古屋は、遊女の中でも最高の位を持つ「傾城(けいせい)」。
一国の君主を、国を滅ぼしかねないほどに虜にするという存在です。

中村梅枝さん
「“傾城であれ”ということはずいぶん言われた。
娘っぽくなるので、傾城としての“格”というか。」

その梅枝さんがいつもイメージするのが、玉三郎さんの阿古屋、登場の花道。
敵方を圧倒し、劇場全体を一瞬にして虜にしていきます。

迎えた梅枝さんの初日。
玉三郎さんの演奏の録音にあわせて、開演ギリギリまで手の動きを確認をしていました。
そして、花道へ。

中村梅枝さん
「この手を広げたところ、玉三郎のおじさまがやると拍手がくる。
お客様をどれだけ芝居に引っぱってこれるか。
でも、やっと始まったなという気持ち。
死にものぐるいで、なんとかおじさまの足元ぐらいにはいけたらな。」

中村児太郎 初挑戦の難役 阿古屋の心で…

児太郎さんには、原点となる思いがありました。
3年前に上演された、玉三郎さんの阿古屋。
この時、児太郎さんは、ひと月にわたって舞台を脇から見続けていました。
その公演が明日でもう終わりという日のことです。

中村児太郎さん
「3年前、本当に涙が出た。
阿古屋の時に『夢さめて』と聞いていて。」

それが、胡弓の演奏場面です。

“夢とさめてはあともなし。”

夢とさめてはあともなし、恋人は行方しれず。
今となってはこの恋ははかないものであったと、胡弓の調べに乗せて語ります。

中村児太郎さん
「自分も阿古屋の気持ちになりきって見ていた。
やっぱり『あ〜』と思うことがあり、つい涙が出ていた。」

児太郎さんの初日は、今日。
そしていよいよ。

3年前に思わず涙したこの場面。

中村児太郎さん
「自分の中でいろんな感情こめたが、難しかった。
まだまだだが、させていただいた喜びと幸せとともに、大変な作品だと改めて思った。」

女形の難役「阿古屋」 玉三郎の指導で継承

坂東玉三郎さん
「自分なりのものを作っていくということと、どう品格を保ちながら、お客様に大勢来ていただくものを作るかということが大事だと思う。」

有馬
「玉三郎さん、自分なりの阿古屋をこれから舞台を重ねていく中で作り上げていく、完成させてほしいという話でしたね。」

桑子
「そんなエールを送っていらっしゃいましたよね。

ちなみに、こちらを見ていただきたいんですが、実は玉三郎さんなんです。
梅枝さん、もしくは児太郎さんが阿古屋を演じる日は、こんなふうに赤く顔を塗って、滑稽な演技をされる、そんな役を演じていらっしゃるんです。
ご共演しながらもエールを送っていらっしゃるんでしょうかね。」

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