2019年5月8日(水)

“米中貿易戦争”のさなか 「一帯一路」の雲行きが…

桑子
「アメリカとの貿易戦争が再燃するかに見える中国です。
実は、その背後でも不穏な動きが出ています。」

有馬
「それが、習近平国家主席の肝いりで始まりました『一帯一路』をめぐる動きです。
中国からヨーロッパまでをつなぐ巨大な経済圏構想、新たな中国の市場を形成しようと、こういう計画なんですけれども、今、雲行きが怪しくなっているのです。」

中国の巨大経済圏構想 「一帯一路」に暗雲?

藤田享子記者(シンガポール支局)
「こちらは鉄道の建設予定地です。
こちら、基礎工事が一部行われていましたが、現在は工事が止まっています。」

中国が主導してマレーシアで進められてきた「一帯一路」の主要プロジェクトの現場です。
建設費におよそ1兆8,000億円をかけて、長距離鉄道を整備する計画でした。
マレー半島の東海岸沿いと東西を横断する、およそ690キロを結ぼうというのです。

ところが…。

マレーシア マハティール首相
「新たな植民地主義のような状況は望んでいない。」

マレーシアのマハティール首相は去年(2018年)、事業の凍結を発表。
前政権が中国と結んだ契約が「不平等だ」と主張しました。
理由の1つが、事業の採算性への疑問です。
鉄道が走る地域は産業や住宅も少なく、完成しても十分な運賃収入は見込めません。

住民
「この辺でバスに乗るのは1人しかいない。」

さらに、建設段階で地元が得る利益の少なさも問題視されました。
「一帯一路」構想のもとでのインフラ開発は中国企業が受注して進められ、作業員も中国人が中心。
現地にはほとんど恩恵をもたらさないというのです。

地元の建築士
「労働力と資材の多くは中国のもの。
この事業で利益をあげるのは中国だ。」

マレーシアが警戒したのは、中国に対して多額の債務を抱える、いわゆる「債務のわな」に陥ることでした。
中国は「一帯一路」を推進するため、各国での道路や鉄道、港などの建設に巨額の融資をしてきました。

その一方で過剰な貸し付けを行い、返済できない場合には重要インフラの使用権などを担保として手中に収めるケースも。
特に国際社会の警戒感を強める結果となったのが、スリランカのケースです。
中国からの融資で港を開発しましたが、利用する船は1日に1隻程度。
債務を返済するめどが立たなくなり、港の運営権を99年間も中国に譲渡する事態になりました。

アメリカのシンクタンクは、「一帯一路」の沿線の国のうち、ジブチ、キルギス、ラオスなど8か国は債務が返済できなくなる懸念が強いと指摘しています。

スリランカのような事態に陥ることを恐れたマレーシア。
しかし、契約を一方的に破棄した場合、数千億円もの違約金がのしかかります。
そこでマハティール首相は「懐刀」とも言える人物を中国に送り込み、建設計画の内容の見直しを求めて再交渉に臨んだのです。

マレーシア 交渉官トップ ダイム特使
「首相は価格の見直しのため私を送り込んだ。
契約はすでに結ばれており、厳しい交渉だった。」

9か月に及んだ再交渉。
中国側は譲歩を示し、鉄道の路線をおよそ50キロ短縮、建設費をおよそ5,700億円削減することで合意しました。
さらにマレーシア企業の受注割合も3割から4割へと増やすことも認めたのです。

マレーシア 交渉官トップ ダイム特使
「一方だけが利益を得る契約は認められない。
中国とマレーシア、双方の利益になるよう訴えた。」

専門家は中国のこの姿勢について。

マラヤ大学中国研究所 ニャオ・チャオビン氏
「中国の大幅な譲歩だ。
物議をかもす事業でも、再交渉すれば双方に利益のあるものにできると示された。」

中国に譲歩を迫る動きはマレーシアだけにとどまりません。

杉本織江記者(アジア総局)
「この辺りの海岸では、大型のタンカーや貨物船などが立ち寄れる大規模な港を整備する計画です。」

ミャンマーで進められていた大規模港湾の建設計画。
こちらも中国からの出資や融資でおよそ8,000億円をかけて整備する予定でしたが…。

ミャンマー 副計画財務相
「将来的に負担が大きくなりすぎるおそれがあり、計画を見直した。」

ミャンマーは「多額の債務が返済できなくなるおそれがある」と方針を転換。
計画の見直しを求められた中国は、建設費を5分の1へと削減、さらに融資も行わないことを確認したのです。

「一帯一路」をめぐり、相次いで譲歩を示した中国。
先月(4月)下旬には、各国の懸念を払拭(ふっしょく)するためか、習主席自身がこう発言しました。

中国 習近平国家主席
「各国の法律を尊重すると同時に、国際ルールに基づき、財政上の持続性を確保していく。」

専門家は、中国の譲歩の理由をこう分析します。

キヤノングローバル戦略研究所 宮家邦彦研究主幹
「このまま続けていれば『一帯一路』そのものが行き詰まってしまうという危機感もあって、方針を変更したんだと思う。
『一帯一路』は習主席が就任してからずっと温め、実行しているプロジェクト。
“指導者としてのシンボル”、失敗するわけにはいかない。
背に腹はかえられない状況にあったとも言える。」

その上で、今後の中国の出方については。

キヤノングローバル戦略研究所 宮家邦彦研究主幹
「彼らは長期的にものを考えるので、短期的な後退でめげる人たちではない。
中国のプレゼンスなり、影響力を残しながら、全体もしくは一部のプロジェクトの縮小・変更していくか、彼らの腕の見せどころ。
それ以外に方法はない。」


桑子
「中国は譲歩をしてでも『一帯一路』を推し進めたいということなんですね。」

有馬
「長い目で見たらそのほうが得だという判断ですよね。
中国による中国のためのやり方を改めることができるのか。
これは私たち日本にとっても大いに気になります。
中国の『一帯一路』、正念場にある、と言っていいのだと思います。」

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